気仙沼訪問リハビリステーション

後悔を力に変えて、地域に定着する事業所へ

担当理事 大貫 操

司会
進行

気仙沼訪問リハビリステーションは、リハビリテーション3職種が協働して財団を運営していることを強くアピールするために、担当理事および管理責任者に作業療法士を据え、日本作業療法士協会のサポートを受けて設立されたと聞いています。気仙沼訪問リハビリステーション立ち上げにあたって、いろいろな思いがあったかと存じますが、お話しいただけますでしょうか。

大貫

私がお話をいただいたのは、浜通りが軌道に乗って、ゆずるがスタートした頃でした。その頃、ちょうど宮城県では訪問リハビリテーション従事者は増えてきたけれどもネットワークがなく、訪問リハの質が担保されているのか、質の低下あるいは質が均一ではないこということに悩んで、訪問リハネットワークみやぎを立ち上げたところでした。

設立の場所が気仙沼だと聞いたときは、宮城県のなかでも「陸の孤島」と言われている立地ですから、スタッフが集まるか、大変心配しました。気仙沼出身で仙台市で働いている若いスタッフに声をかけても、今はまだ戻らないという人が多かったですね。

ただ、気仙沼に実際に行ってみると、医療スタッフは確かに少ないのですが、ネットワークを作ってくれている医師がいて、基盤がきちんとできている、魅力的な環境にあることが分かりました。

また、私自身の話になりますが、震災後の支援活動になかなか参加することができなかったことがずっと心残りになっていました。仙台市は電気などのインフラが止まるなどの影響はありましたが、津波の被害を受けたわけでもありませんでした。それでも、子供のことであったり、自身の訪問リハビリテーションの患者さんを支えるので精いっぱいになっていたりで、被災地に出向いていけず、お手伝いできなかったという後悔があって、事業所設立のお話を頂いたときに、私が力になれることがあれば、という気持ちで理事を引き受けさせていただきました。

この事業所を通じて、地域に密着したステーションづくりをすることで、現在は地元を離れて仕事をしているリハスタッフが、地元に戻って仕事ができる環境を作ること、被災当時にできなかった分の支援をいま実行すること。この2つの思いを持って、地域に定着できる事業所にするためにがんばっていきます。

開所式での地鎮祭の様子
開所式での地鎮祭の様子

支援する側の責任を受け止め、地域の課題に応える

管理責任者 米田 幸二

司会
進行

気仙沼事業所の管理責任者である米田さんは、ゆずるでの勤務を経て、管理責任者として気仙沼事業所立ち上げから取り組んだと聞いています。
財団へ入職された動機、これまでの経緯、事業所の活動状況などについてお聞かせいただけますか。

米田

私も石田さんと同じように、震災後の日本作業療法士協会が行った被災地支援に参加して、2012年1月から1週間ほど南相馬市で派遣ボランティアとして活動しました。その際に目の当たりにした被災地の状況と、活動として行った集団指導や個別相談などの体験を通して、震災から1年以上経つなかで身体の不具合なども見えてきて、今こそリハビリテーション専門職が関わる時期なのではないかと思うようになりました。そこに財団の職員募集があり、これまで13年程度関わってきた訪問リハビリテーションの経験を活かしてチャレンジしたいと気持ちを固めて応募しました。

元々はボランティアとして派遣された浜通りへの配属を希望したのですが、ゆずるの人手が足りていないということで、ゆずるでの勤務がスタートとなりました。そうこうしているうちに2014年の夏を迎えたある日、ゆずるの担当理事である櫻田先生から、3事業所目の立ち上げに際して作業療法士である私に管理責任者をお願いしたいというお話をいただき、私もお役に立てるならということで引き受けることにしました。

気仙沼事業所はこの10月で設立から1年を迎え、年間総数160名の方にご利用いただくことができました。当事業所の圏域には訪問看護と病院管理の訪問リハビリテーションが1か所しかないこと、回復期病院がないために中核病院から在宅回復期への受け皿として活用いただけたことが大きかったのかと思います。また、立ち上げ時にご挨拶にうかがった地域で活躍されている医師から、復興特区で入ってきて期限が終了したらどうするのか、その時に撤退するようなら入らないでほしい。入るのなら責任を持ってやってほしいと、大変厳しいお言葉を頂きました。その言葉のおかげで、私たちも気持ちをしっかり持つことができ、たくさんの方にご利用いただける事業所になったのではないかと、今振り返って思っています。

私たちの活動としてご紹介したいのは、気仙沼湾内にある航路距離7.5kmの離島である大島に週3回、訪問リハビリテーションを提供していることです。離島からの交通費等の問題があってリハビリテーションを受けることができない方に対応してほしいとケアマネジャーから要望をいただき、採算的な課題を検討する必要はあるとしても、財団の使命として実施したいという強い気持ちから取り組んでいます。

また、地元出身のスタッフを通じて、地域包括支援センターからの介護予防研修や介護予防体操の検討会、地域包括ケアの現状と課題についての懇談会などに参加させていただくなど、介護予防事業の基礎づくりの活動の中に入れていただけていると思います。

気仙沼は多職種連携が進んでいる地域だというお話を大貫担当理事からもしていただきましたが、医療施設、介護施設、薬局、薬品卸業者、システムエンジニアなど、医療介護に限らず多様な分野の方が集まる勉強会があったり、懇親会で飲食しながらざっくばらんに話をする機会をたくさん設けていたりと、顔の見える関係づくりが活発だというのが、気仙沼の特徴だと思います。この関係を基盤として、今年度はICTを用いた在宅ケアの多職種情報連携トライアルという事業に取り組むことにもなっています。

気仙沼事業所はリハビリテーション資源として地域の方から認められていると思います。一方で、設立の趣旨にある「被災地支援」については、地域の医師等から、そういうかたちにとらわれるのではなく、介護サービスが不足している地域でどのような活動をするか、ということを考えてほしいと言われています。財団の3つの事業所がリハビリテーション資源が少ないという共通の課題がある地域にできたということに、事業所設立の大きな意義なのではないかと感じています。これからも関係団体が一丸となって、訪問リハビリステーションの重要性を伝えるとともに、私たちスタッフも活動内容の発信等を通じて理解を深めていただく必要があると考えています。

気仙沼訪問リハビリステーション スタッフ
気仙沼訪問リハビリステーション スタッフ
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