広報誌No.24 特集「みんなでつくる健康なまち」

ごあいさつ

日本は少子高齢社会という大きな課題を背負っています。私はこの状況は「国難」と言うべきと考えています。この深刻な状況を解決し、明るく豊かな少子高齢社会を作るためには、全国民を挙げての協力が必要です。

厚生労働省ではいち早く「地域包括ケアシステム」という名称で、予防・医療・介護・生活を一体的に再構築することを提案・推進してきました。中でも「医療から介護ヘ」「施設から地域へ」というフレーズに象徴されるように、入院医療から在宅医療へと大きく舵を切ってきました。一方、2025年にはいわゆる団塊の世代が75歳に到達し、超高齢社会のピークを迎えます。これまでの研究では、75歳を超えると一気に入院が必要な身体状況になることが報告されています。ですから、年々歳々、社会保障費は伸び続けており、国家予算に占める割合も伸び続けているのです。そこで厚生労働省が力を入れているのが「健康寿命の延伸」であり、転倒骨折・脳血管疾患・認知症の寝たきり3大疾病を予防することです。

このような大きな課題を解決するためには、大きな仕組みがどうしても必要になります。その仕組みを作るにあたっては「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」が大切です。産業と行政、そして学術団体が協力して、それぞれの特徴を活かして新しい仕組みを作ることが望まれます。これまで産官学の協調体制が必要だと指摘されてきましたが、なかなか実現するには至りませんでした。役割の違いを活かした協調体制を目指しても、その体質の違いを乗り越えることは非常に困難だったからです。

しかしこの度本会では、長野県と三重県でこれまでの枠組みを超えた「産官学」体制を確立することができました。この体制を維持発展させることは困難かもしれませんが、これからは地域住民の積極的な参加によって発展させていきたいと考えています。地域包括ケアシステムは市町村を単位とした新しいシステムです。そこでは住民の意識改革及び参加が不可欠になってくるのかもしれません。

公益社団法人 日本理学療法士協会
会長 半田 一登

Intoroduction

いつまでも、住み慣れた地域で自分らしく暮らす

「地域包括ケアシステム」という国が提唱している考え方です。私たち理学療法士は運動を治療として使用する医療専門職として、様々な活動を行っています。

広報誌『笑顔をあきらめない。』では、その活動の一部をご紹介します。今号では「高齢者の安全運転」「温泉地と運動」をキーワードに地域の中で他の団体や職種と連携して行っている活動をご紹介します。

協会の理念

Feature 【対談】 高齢社会での車の役割と地域づくり

我が国の限られた財源の中で、国民の皆さまの健康と幸福、尊厳を守るために理学療法士たちは全国で様々な取り組みを行っています。今号では、「地域が元気になるお手伝いをしたい」という信念の下、「車のプロ」「身体のプロ」が手を組み、一つの目標に向かって始めた事業について、お伝えします。

(左)三重ダイハツ販売株式会社 取締役社長 林 恒雄 氏 (中左)ダイハツ工業株式会社 社長 三井 正則 氏(※対談取材時、現会長) (中右)公益社団法人日本理学療法士協会 会長 半田 一登 (右)一般社団法人三重県理学療法士会 会長 高橋 猛 氏
(左)三重ダイハツ販売株式会社 取締役社長 林 恒雄 氏 (中左)ダイハツ工業株式会社 社長 三井 正則 氏(※対談取材時、現会長) (中右)公益社団法人日本理学療法士協会 会長 半田 一登 (右)一般社団法人三重県理学療法士会 会長 高橋 猛 氏

テーマ1 超高齢社会で変わる"高齢者"と"車"の関係

三井 我々の使命は安全で快適な車を提供することです。一方で高齢化が進む社会の中で、車の提供だけではなく、高齢の方がご自身の運転で自由にどこでも行けるようにすることも、大事な使命だと感じています。
私は、毎日のように「軽自動車で高齢者が逆走した」とか「ペダルを踏み間違えた」といった事故を耳にして、どうにかして無くしたいという思いをもっていました。そこで、高齢の方にいつまでも安全運転で、生き生きとした人生を送っていただき、ひいては地域を元気にするために、我々の店舗や商品をどう活用いただけるか、今回、理学療法土の皆さまにご相談したのです。

半田 今回はお声掛けいただきありがとうございました。私自身も昔から車が好きでしたが、利用者としての感覚からすると、かつては進化する車に人が合わせていくといったような印象を受けていました。ですが、高齢化が進む社会の中では、車をいかにして利用者に適したものにしていくかがポイントになる気がします。
また、これは個人的な話になりますが、私自身も今年で70歳となりました。北九州の実家に帰ると、車に乗る用事といえばコンビニかスーパーしかありません。スピードも特に出すわけではないし、長距離を運転することもほとんどありません。そうすると、車も安くてコンパクトな、足代わりとなるものの方が求められるのかなと思います。

なるほど。ただ、お客様にできるだけ長い間、健康で、かつ安全な運転をしていただけるようにしたいと思っても、そのために必要な筋力をどうやって保つか、認知機能をいかに長く維持するのか、などのノウハウを我々は持っていません。

半田 高齢の方は様々な心身機能が低下しています。また、行動範囲も限定されています。それらを前提に、かつ生活に即した形で考えることができるのも理学療法土の強みです。

講座の内容

●集合

三重ダイハツ販売株式会社の店舗に集合します。

●車の機能と安全運転の講習

JAFの皆さんから車の機能から見た安全運転についての講習を受けます。

●安全運転のための身体の使い方

理学療法土による安全運転のための身体の使い方講座を受けます。乗り降りや後方の確認など、正しく身体を使うと動きも変わり視野も広がります。

テーマ2 地域で支える高齢者の心と身体

三井 健康講座で理学療法士の皆さまに講師をお願いしましたが、参加者に対して非常にフレンドリーで、終始楽しい雰囲気で講座を引っ張っていただいたのが印象に残りました。参加者のお一人が「後ろを見るのがすごく楽になった」と良い笑顔をされていたのを見て、嬉しくなりました。

半田 私も、松阪市に募っていただいた参加者に交じってみましたが、汗びっしょりになりました。意外としんどいものですね。一般的に、高齢の方が自分の努力だけで運動を続けるのは、なかなか難しいものです。場所や人など環境を整えていかねばなりません。ですが本日の健康講座のように、常に理学療法士がいないと運動できない、ということでも不便です。ですので、やはり地域づくりが大切です。近くに住む、お付き合いのある住民同士で主体的に継続して運動に取り組んでいただく。我々理学療法士はそれをサポートする側に回りたいと思っています。その中で、ダイハツ工業さんのようなところから場所を提供していただけると、素晴らしい成果が期待できるでしょう。

高橋 三重県では毎年100名程の理学療法士が育ってきますが、学校教育の段階では、高齢化が進む社会に対して理学療法士として自身がどう関わるかという教育が不足しています。医療・介護施設の中だけでなく、地域の中でも貢献できる理学療法士を三重県理学療法士会として育てていきたいと思います。

テーマ3 未来へ向けて、高齢者が車を運転する意味とは

半田 高齢者の健康寿命を阻害する要因は大きく分けて三つあり、「脳卒中」「転倒・骨折」「認知症」です。いずれも、活動範囲が狭まり、社会との関わりが少なくなっていくと、起こりやすくなります。暮らしの中で、やはり車という移動手段を通して生活範囲、社会の広さを担保することが大切でしょう。

三井 確かに、我々の主力商品である軽自動車のお客さまには高齢の方も多く、日常生活の足として欠かせないほどにご利用いただいています。このような取り組みを地道に継続していくことで、地域が元気になっていくことを期待しています。

半田 高齢者の健康寿命を阻害する要因は大きく分けて三つあり、「脳卒中」「転倒・骨折」「認知症」です。いずれも、活動範囲が狭まり、社会との関わりが少なくなっていくと、起こりやすくなります。暮らしの中で、やはり車という移動手段を通して生活範囲、社会の広さを担保することが大切でしょう。

高橋 やはり、継続が一番大切なことだと思います。今回のモデル事業を三重県内で継続し、全国に発信していきたいですね。

実は、私自身、20年ほど前に理学療法士の方に大変お世話になりました。身体の自由が利かないときに理学療法士の方が迎えに来てくれて、非常に心が安らいだことを覚えています。今後も、教えていただいたことを含め、事業を継続していきたいですね。本日は、ありがとうございました。

三井 我々は「地域が元気になるお手伝いをしたい」という思いからこうした活動を始めたわけですが、途中、少し行き詰まりを感じていたところもありました。理学療法士の皆さまとの関わりが良いきっかけとなりましたので、今後も様々な面でご協力いただきたいと思います。よろしくお願いします。

半田 今回のように「車のプロ」「身体のプロ」が一つの目標に向かって歩み始めたということは素晴らしいことです。ぜひ、様々な分野の方からの共感が得られればと思います。どうもありがとうございました。

Information

「温泉地」で健康増進!

宿泊型介護予防・認知症予防事業 (長野県上田市 鹿教湯温泉郷)

産( 温泉地の皆さん)官( 環境省、上田市)学( 理学療法士・他医療専門職)が連携して活動している事例です。
2016年5月16日に環境省、上田市、本会の三者間で、国民の健康増進に資する事業を展開し、かつ、新たな温泉地の姿を構築するために「温泉を活かした健康づくりに関する協定」を締結しました。
それに基づき、温泉地を活用した宿泊型介護予防・認知症予防事業(ものわすれドック)を、長野県上田市鹿教湯温泉郷にて実施しております。これは、温泉宿泊地に2泊3日で滞在しながら、病院での各種検査や医療専門職によるアドバイスにより、疾病を未然に防ぐというものです。本ページでは、事業の一部を写真でご紹介します。

●1日目

オリエンテーション

●2日目

一般健診、MRI、神経心理検査、歯科検診、栄養指導、運動機能評価等、医師、保健師、管理栄養士、理学療法士等の専門的な評価のもと、認知症予防に向けたプログラム(有酸素運動や認知課題など)を体験

理学療法士による身体機能評価

理学療法士や保健師等による生活指導

理学療法士による認知課題体験

●3日目

温泉を楽しむことはもちろん、周辺の観光を含め、身体を動かす楽しさを体験します。

ノルディック・ウォークで鹿教湯温泉内を散策

笑顔の肖像

全国で活躍する本会会員の「笑顔」をご紹介します。

  • 医療法人社団主体会主体会病院
    総合リハビリテーションセンター
    理学療法士
    伊藤 卓也さん

私は、三重県の病院に勤める理学療法士です。病院で理学療法士として働きながら、一般社団法人三重県理学療法士会という、三重県に在住もしくは在勤の理学療法士を会員とする職能団体の活動にも携わっています。一般社団法人三重県理学療法士会では、会員の理学療法技術や知識の研鑓活動だけでなく、地域社会に理学療法士の知識や技術を還元することを目的とした事業にも取り組んでいます。

日本は世界一の超高齢社会であり、このような社会をいかに支えるかが喫緊の課題となっています。しかし高齢化がもたらす課題は地域ごとに異なり、その対処も地域の実情に応じて進めることが必要と言われています。

これらの地域課題は、行政や住民だけが取り組んでいくものではなく、地域が一丸となって取り組むべき課題だと思います。地域には、専門知識や技術を持った専門家や企業など、様々な社会資源があります。それぞれが、地域の課題は何か、どのような地域社会を作るのかといった共通の理解を持ち、地域課題に向かって力を合わせていくことが重要になると考えています。

理学療法士として、患者さんへより良い理学療法を提供できるように努めていくのはもちろんのこと、地域の一員として理学療法士、が地域課題の解決のお役に立てるように、これからも取り組んでいきたいと思っています。

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