広報誌No.17 特集「地域包括ケアシステムと理学療法~地域ケア会議と介護予防への取り組み~」

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地域包括ケアシステムへの取り組み

高齢者の増大、少子化などに伴う人口動態の変化により、2025年以降は若者2人が高齢者1人を支え、さらにその先は1人で1人を支えるという、過去に経験をしたことのない社会を迎えようとしています。この難局を乗り越えるために、国は様々な施策を実施しています。その中で医療・介護保険分野に関しては、都道府県から各市町村レベルを主体に効率的で効果的な医療・介護サービスの提供と地域住民も参加した地域包括ケアシステムの構築が進められています。これは、いつまでも元気で自立した生活を継続するための予防や介護予防を含んだまちづくり、仲間づくり、病気になっても医療・介護保険サービスの連携で早期に在宅復帰し安心した生活が営める体制を構築しようとするものです。
地域包括ケアシステムの構築に向けて日本理学療法士協会、各都道府県理学療法士会が連携し様々な活動を行っています。予防、介護予防に関しては2014年7月13日を介護予防の日として全国一斉に様々な予防に対する啓発活動を行いました。また、理学療法士個々の予防に関する知識を強化する目的で介護予防推進リーダー研修を開催しております。研修を受けたリーダーが各市町村の事業を支援することができるよう他団体とも連携し、さらなる質の向上を目指しております。

また、在宅で介護を継続される方々の生活が「本人主体で自立した生活が営める」ように、ケアマネジャーや提供されているサービスに従事している他職種の方々に、担当者会議・地域ケア会議を通じて支援できるように地域ケア推進リーダー研修を開催し、質の向上を目指しております。
各地域では、理学療法士だけでなく作業療法士、言語聴覚士のリハビリテーション専門職種の連携を強化して多様なニーズに応えられる体制作りを目指しています。
このような状況でよく質問をいただくのは、「理学療法士さんは何ができるのですか」です。例を挙げると元気であっても、何らかの原因で不活発になり、家に閉じこもり活動を低下させ要介護に陥ってしまう例は多くあります。この状況を改善させるために、理学療法士は生活活動の期軸になる「歩行・移動能力の維持向上」を中心に支援し高齢者の自立した生活活動に結び付けていきます。そして、日本理学療法士協会は、このような理学療法士の活動を点から線、線から面へとつなげ、職能団体として社会的な期待により応えられるよう努めてまいります。

  • 公益社団法人 日本理学療法士協会
    地域包括ケアシステム推進対策本部
    森本 榮

特集1 多職種が集う地域ケア会議で理学療法士の専門性を活かす-地域で生活する高齢者を支える「リハビリテーション」の視点-

Interviewee

  • 医療法人 友紘会 西大和リハビリテーション病院
    リハビリテーション部 技師長 理学療法士
    徳久 謙太郎さん

介護予防事業と連動し、最善を導く 生駒市の地域ケア会議

生駒市の介護予防強化推進事業では、主に健康な方から生活の一部に介護サービスの利用を必要とする要支援の方々までを対象に、3ヶ月を1クールとする集中介入期を設けて、通所型と訪問型の介護予防サービスを提供しています。ここで、機能や日常生活活動を改善して、介護状態に陥るのを未然に防ぎます。その後は、3ヶ月ごとに対象者のモニタリングを実施していくことにしています。この時期は、ケアマネジャーが中心となって、サロンやボランティアなど、その方にあった地域の活動への参加と定着を促していきます。

地域ケア会議は初回、中間、最終と1か月に1回合計3回行っています。参加者は市役所の保健師、地域包括支援センターのケアマネジャー、理学療法士、看護師、健康運動指導士、栄養士、歯科衛生士などです。初回会議では対象者が生活に対して抱える課題や問題点を把握し、対象者の希望を軸にどのような支援が必要かを検討し、支援方針を決定します。その中で本人や家族の潜在・残存能力を最大限に生かす方法を検討します。最終会議では介護予防の介入により目標がどこまで達成できたかの確認と、地域の社会資源などを活用しながら、今後どのように生活機能を維持していくかについて話し合います。

それぞれの職種の能力を知り、理学療法士の強みを伝える

地域ケア会議をはじめた当初は、各職種がお互いに何ができるのか、どのような専門性を持っているのかわからない状況でした。私は、まず理学療法士には、身体の状態や生活環境を評価し、リスク管理を行いながらその方の活動を高めることができると、事例を用いて紹介しました。そして、実際に地域ケア会議を重ねていく中で、地域ケアにおける理学療法士の役割についてより深く知っていただけたと思います。

特に疾患や障害の特徴の把握と、そこから生じるリスクへの適切な対応は、理学療法士の知識が大いに役立ちます。たとえば、買い物途中に転倒したために自宅に引きこもりがちになったパーキンソン病患者さんの事例では、転倒リスクを考えて外出を制限したほうがよいという意見に対し、制限をする前に患者さんの状態と現場の評価をする必要があることを説明しました。その理由は、パーキンソン病の動作の特徴を踏まえて外出経路を選択すれば、転倒リスクが下がると考えたからです。その後実際に現場を確認し、介助のポイントを奥さんにアドバイスをすることで、転倒することなく買い物を継続することができました。この男性にとって、奥さんとの買い物は大切な生活の一部であり、心理的な支援にもつながったと思います。この事例は、理学療法士の専門知識が問題の発見と解決に貢献し、その人自身の生きがいを尊重することができた一例です。
最近では、会議の場で理学療法士として発言を求められることが増えてきました。これは、ケアマネジャーや保健師の方たちに、理学療法士の持つ専門知識と、社会への参加も含めた大きな意味でのリハビリテーションに関する多角的な視点が、高齢者を支援するために有用であると知っていただけたからではないかと感じています。ただ、これは理学療法士への期待のあらわれであると同時に、責任の重さにもつながると思います。それにしっかり応えられるよう、自身の知識・能力をいま以上に伸ばし、よりよい地域ケア会議の運営に貢献したいと考えています。

さらなる発展のために 地域ケア会議の今後の課題

別の事例では、奥さんと二人暮らしのアルツハイマー型認知症の男性に対し、奥さんの介護負担軽減のためにデイサービスの利用を増やす方向で話が進んでいましたが、私は男性が生活をいきいきと送れているかどうか、まず確認しました。そこで、日課としていた犬の散歩を止めてから自宅に閉じこもるようになり、怒りっぽくなったことが分かりました。そこで、運動や活発な生活を送ることで身体機能の低下や認知症の予防につながること、閉じこもりや認知症への不適切な対応が、怒りっぽさという行動心理症状につながっていることを説明し、犬の散歩の再開、通所リハビリテーションの利用を促すことを提案しました。これにより、ご本人の生活の質を担保しつつ、奥さんの介護負担も軽減することができるでしょう。

地域ケア会議では、ご本人のお話やケアマネジャーさんが引き出した情報も有効ですが、それぞれの専門職が現場をそれぞれの視点で検討することで、よりその人に合った解決策を選びだすことが可能になります。同時に、地域ケア会議に参加する側にとっても大きなメリットがあります。他職種への理解や行政や民間団体が行っている支援サービスの知識などを知ることができます。参加人員の確保や、個々の能力の充実、財政の問題など、実践には多くの課題がありますが、多職種と行政で連携する意味を大いに実感しています。

Interviewee

  • 医療法人財団 逸生会 大橋病院
    リハビリテーション科 科長 理学療法士
    卜部 吉文さん

地域ケア会議の実現を目指して 模擬地域ケア会議の実施

北区では、赤羽、王子、滝野川の3つの地区に分かれて、地域ケア会議に向けた準備が行われています。地域によって、活用できる社会資源や、住民のニーズは異なるので、最適な地域ケア会議も異なります。北区にとってはどのような形式が適しているのか、すでに実践されているケア会議を参考にして、関係する職種たちが協力しながら取り組んでいます。
そのひとつとして、赤羽地区では、区と連携して模擬地域ケア会議を開催しました。これは、実際の事例について、対象の状態、家庭環境、住環境、希望などを細かく記載した資料を用意して、多職種が意見を述べあうというものです。私は、理学療法士の視点で何ができるか説明しながら、その患者さんには、何が必要なのかといった提案を行いました。このようなロールプレイを通して、どのような地域ケア会議の体制が望ましいかを参加者全員で検討しています。

多職種連携のネットワークを活用して自己研鑽と交流を図る研修会の開催

北区では多くの研修会を開催し、各職種の支援を行う体制を築いています。約200名のリハビリテーション専門職が所属する「北区リハビリネットワーク」では、シーティングや脳卒中などの後遺症である高次脳機能障害に関する研修会など、月に1回程度は、何らかの研修会を開催しています。
ほかにも、医療と介護の連携について検討する「在宅介護医療連携推進会議」や、「北区在宅ケアネット」など、さまざまなネットワークがあります。 北区では、このような研修会やネットワークを通じて、多職種が協力しやすい体制の構築と、よりよい地域ケア会議の運営を目指しています。

行政や多職種との連携を通じて理学療法士が求められることを把握する

これらの活動に参加することで、地域包括ケアシステムにおいて、理学療法士に求められていることは、(1)生活全体のリハビリテーション・マネジメントをすること、(2)リハビリテーション評価を他の職種に分かりやすく伝えること、などたくさんあることが分かってきました。
また、模擬地域ケア会議では、理学療法士が参加することで、介護で生活を維持する「介護型ケアマネジメント」ではなく、「自立支援型ケアマネジメント」の視点を提供することができると感じました。生活機能の低下した高齢者に対して、「心身機能」「活動」「参加」の視点から総合的に提案や指導を行うことなどは、理学療法士がもっとも得意とすることです。
地域ケア会議では、個別課題だけでなく、「サービス資源に関する課題」や「ケア提供者の質に関する課題」などが抽出され、課題解決のための「新たな資源開発・地域づくり」にもつながっていく取り組みだと感じました。ぜひこうした取り組みにも、理学療法士として貢献したいと思っています。

一方で、理学療法士には、医療保険・介護保険の制度や、多職種連携のあり方、地域資源など、地域包括ケアシステムを構築するための知識に、不十分なところがあることにも気づきました。活動に参加するためには、職場や関係者たちの理解も必要です。
今後、よりお互いの専門性・役割を知り、サポートしあうことで、多職種連携を進め、高齢の方が暮らしやすい環境、地域を提供できると思います。そのためにも、われわれ理学療法士自身が、できることをしっかり実践して、情報を発信していきたいと思います。

特集2 知ることで、変わる人生がある。理学療法士が伝えられること。

Interviewee

  • 公益社団法人 鹿児島県理学療法士協会
    会長 梅本 昭英さん

「障がい」への知識を持つ理学療法士が介護予防を伝えていく意味

日本理学療法士協会は、今年度、初の試みとして、理学療法週間の活動の一つとして、全国一斉に「介護予防推進キャンペーン」を行いました。このキャンペーンの目的は、日本全国で講演会や体力測定等を開催し、介護予防のことを、より多くの方に知っていただくことでした。私たち理学療法士がこのような活動を行うことには理由があります。元来、理学療法士は、病院などで障がいを持った方たちに対する治療に携わってきた、身体づくりの専門家です。そのため、障がいを持っている方でもできる運動や、障がいの発生を防ぐ運動についてよく知っています。だからこそ理学療法士は、国民の皆さんに、正確にわかりやすく、説得力をもって、介護予防のことをお伝えしたいと考えています。介護予防のことをしっかりお伝えすることで、国民の皆さんのよりよい生活を過ごしていただきたいと思います。

知らない人にこそ伝えたい 介護予防の重要性

このキャンペーンの中で、鹿児島県理学療法士協会(以下、当会)は、ショッピングモール内で、理学療法士による老化予防・転倒骨折予防・認知症予防の講演、シニア向けの体力測定、介護予防に関する相談会を開催しました。体力測定は、握力や5メートル歩行などを行ってもらい、理学療法士が身体の状態を説明し、今後考えられるリスク、その予防法のアドバイスをするというものでした。体力測定の結果は、レーダーチャートにしてお渡したので、参加者の方自身も、どこが弱っていて気を付けてなくてはいけないか、知ることができたとの感想をいただきました。キャンペーン以外の活動として、今年度は、ショッピングモールからの依頼で年9回の介護予防教室を実施しています。認知症予防や生活習慣予防など、高齢者の方や、そのご家族の日々の生活に役立つ情報も伝えています。ショッピングモールは、いろいろな方が行き来する場所です。ですから、参加される方の年齢層もさまざまです。高齢者の方のほかに、若い世代など、まだ介護予防のことを詳しく知らない方たちへ訴求できるので、効果は大きいと思っています。今後も、気軽に足を運べる場所で活動することによって、より多くの方に、介護予防について知っていただきたいと思っています。

また、このようなイベントとは別に、年以上前から市の保健所と協働して、転倒予防教室も開催しています。現在では、年間270か所、約4,000人の高齢者の方たちに、転倒予防や介護予防の知識をお伝えしています。

医療職への技術の伝達 地域包括ケアシステム構築のために

当会では、 一般の方だけではなく、看護・介護職員への技術伝達の研修会にも力を入れています。たとえば、看護・介護職員を対象に、寝返り、起き上がり、立ち上がり、移乗動作について、実技を中心に研修会を行い、皆さんの日々の業務に活用できるものを伝達しています。参加いただいた方からは、明日からすぐに応用できる内容だったと、高い評価をいただいています。このような医療職への研修会を今後も積極的に行い、医療・介護の専門職が一つのチームとなって活動したいと思っています。理学療法士は、こうした一般の方、医療職の方に理学療法の知識を伝達する一連の活動を通じて、地域包括ケアシステムの構築における「自助・互助・共助・公助」の展開に貢献できると考えています。このような取り組みは今後ますます必要とされるため、私たち理学療法士も自己研鑽はもちろんですが、広い視野を持ち、柔軟に対応できることが求められていると思います。

さらなる普及のために 組織の成熟と、人材育成を

今後、私たちが介護予防をさらに浸透させるための課題として、組織の成熟と人材の育成があると考えています。当会の会員数は、現在2,000名を超えたところですが、超高齢社会において社会から求められる役割を果たすために、専従の事務局職員を3名雇用しています。そのため、行政の方からの依頼などに対して、迅速な対応ができ、結果的に、行政と連携して地域づくりをすることができています。
また、介護予防事業に、より力を入れていくためには、必然的に多くのスタッフの力が必要になります。そのため、研修会の実施やテキストの配布を行い、個々のスキルアップをサポートしています。転倒予防教室には、できるだけ若手の理学療法士をアシスタントとして同行させ、現場での経験を通じて、より実践的能力の習得に励んでもらっています。今年度からは、日本理学療法士協会が創設した介護予防推進リーダー制度を活用し、よりレベルの高い人材を育成していきたいと思います。現在、当会に所属する会員の多くは、20代、30代の若手です。この若手の育成を充実させることが、結果的に組織の成熟にもつながると考えています。より組織が一体となって、日本の超高齢化社会を支えられるよう、努力をしていきたいと思っています。

理学療法週間とは...今から46年前の昭和41年、理学療法士110名が日本理学療法士協会を結成した7月17日を「理学療法の日」と制定し、その前後一週間を中心に、 全国の都道府県理学療法士協会では、理学療法をより多くの人々に知ってもらうためのさまざまなイベントやセミナーを行う期間としています。

介護予防推進キャンペーンの様子(2014年7月)

介護予防推進キャンペーンの様子(2014年7月)

転倒予防教室の様子(2014年8月)

転倒予防教室の様子(2014年8月)

笑顔の肖像

日本理学療法士協会は、地域包括ケアシステム構築に対応するため、各部署から職員を募り、地域包括ケアシステム対策本部を設置しています。今回は、メンバーの中から2名の職員を紹介します。

  • 公益社団法人日本理学療法士協会
    事務局生涯学習課 粕谷 拓己さん(右)
    公益社団法人日本理学療法士協会
    事務局職能課 大津 陽子さん(左)

粕谷:地域包括ケアシステム推進に対応できる理学療法士を育成するため、地域包括ケア推進リーダー制度の仕組み作りやe-ラーニングのコンテンツ制作、導入研修開催のためのモデル研修会の運営などに携わっています。それぞれの地域で対応する都道府県理学療法士会が人材の育成と活用を円滑に進められるよう、既存の認定・専門理学療法士制度との整合性も考慮しつつ、担当の理学療法士と協力して運用まで至りました。今後も、地域包括ケアシステムを構築していく中で、理学療法士としての立ち位置を確立していけるよう、取り組んでいきたいと思います。

大津:職能担当者として医療・介護に関する政策・中央省庁の方針に関する情報共有を図りながら、都道府県理学療法士会の組織力強化・行政との協働促進などに携わっています。都道府県や市町村の行政と直接やりとりをするのは都道府県理学療法士会ですが、その際に理学療法士が介護予防や地域ケア会議などの取り組みに大きく貢献できる専門職だと理解していただけるよう、様々な支援をしています。今後、医療専門職に加えて、行政・マスメディア・NPO等多様な人々の協働が推進されていく中で、理学療法士が専門性を確立し、活躍していけるよう尽力したいと思います。

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