浜通り訪問リハビリステーション

片道3時間かけて支え続けた3年間

担当理事 風岡 都

司会
進行

財団で最初に開所されたのが浜通り訪問リハビリステーションでした。
その開所の経緯を教えていただけますか。

風岡

財団が「岩手県か福島県で1番目の事業所を」と検討している段階だったと思うのですが、福島県理学療法士会会長から「協会理事から電話がかかってくる」という連絡がありました。さっそくかかってきた電話口から、関西弁で勢いのある声で「福島県に行きます」と言われて、「なんなんだろう?」と思ったのを覚えています。それが現在も事務局長を務める松井理事との出会いでした。

私は3協会が開催する訪問リハビリテーションのリーダー会議にずっと参加していて、福島県理学療法士会の理事として介護保険部門で活動していたこともあって、今回のお役目が回ってきたのかなと思います。私の住んでいる白河市から南相馬市まで、同じ県内といえども車で片道3時間かかる距離です。その道を月に何度も往復するのは大変でしたが、浜通りのスタッフも初めてのことだらけで奮闘しているところに、なにがしかの力となれたことをとてもうれしく思います。

浜通りは、なにぶん初めての訪問リハビリステーションですから、右も左も分からないなかで、最初は財団の役員の皆さんと、途中からは入職したスタッフも加わって、試行錯誤しながら準備を進めました。今、浜通りが地域に浸透して活躍の場を広げていることを担当理事として誇らしく思っています。

全国から浜通りに集まったスタッフとともに、リハビリテーショというものを利用者、地域住民の方々にご理解いただいて、うまく活力としていただければ、それこそ地域づくり、復興支援につながります。これからも片道3時間の道のりに負けずに、浜通りを支えていきたいと思っています。

事業説明会での現地視察の様子
事業説明会での現地視察の様子

地元、南相馬市を元気にする力に

管理責任者 安部 ちひろ

司会
進行

福島県は原発事故の問題があり、ほかの地域とは違う特殊な事情がありました。そのなかで現地から設立の要望があって、必要な場所にできたということはとても素晴らしいことだと思います。管理責任者の安部さんは南相馬市のご出身だとうかがっています。財団に入職された動機や事業所の活動状況などについてお聞かせいただけますか。

安部

震災当時はいわき市で働いていましたが、実家は南相馬市にあります。母方の祖父宅が津波被害に遭ったり、両親が原発事故の影響で避難生活を余儀なくされていたので、私が地元に帰ることができたのは、1か月半ほど後のことでした。そこで目の当たりにした現地の様子に衝撃を受けました。一方で、いわき市にも避難してきた方がいて、どちらも大変な状況で、自分はどのように行動すればいいのかと葛藤していたときに、財団立ち上げの話を聞きました。

そこで、福島市で行われた事業説明会に参加して、また、担当理事の風岡先生とは訪問リハビリテーション研究会でつながりがあったこともあり、迷いはありましたが、地元のために何かできることがあればという気持ちで入職を希望しました。仕事の都合上、立ち上げから参加はできなかったのですが、翌年2013年1月から入職して現在に至ります。

活動内容の前に当時の南相馬市の状況についてお話しますと、福島県沿岸部は元々リハビリテーション資源が少ない地域でした。そこに東日本大震災が発生し、南相馬市にセラピストのいた訪問看護ステーションは震災後にスタッフ確保が難しくなって看護師だけとなり、地域の病院から一時的に提供された訪問リハビリテーションも、入院と兼務のため退院後のフォローまでで手いっぱいという状況でした。

そこで私たちは、地域の方は訪問リハビリテーションがどういうものかご存じではないことが課題になっていると考え、啓発活動として、チラシ(現・浜リハ通信)を作ったり、ケアマネジャー向けの勉強会を開いたりして、訪問リハビリテーションについて知っていただくところから始めました。そうした活動を通じて、徐々に利用者さんが増え、ケアマネジャーの方も、訪問リハビリテーションの役割を踏まえた依頼をしてくださるようになりました。

また、浜通りのスタッフは地域活動を意識している者が多く、NPO法人が実施しているウォーキング教室や、男性の引きこもり防止を目的とした「男の木工教室」という活動に参加するなど、積極的に地域とつながりを作っています。そうした活動の中から、たとえば元大工の利用者さんを紹介するなど、活動・参加につなげる取り組みができています。このような取り組みでは、彼らの活動から私のほうが学んでいるなと感じています。

南相馬市は震災後に働き手が流出してしまったという課題があるのですが、人手不足な分、専門職同士が連携しようという意識が高いと感じています。通所介護施設では、介助法の統一や言語聴覚士による食事の場面の見学などのために訪問させていただいたり、訪問看護ステーションでは、利用者さんでリハビリテーションが必要そうな方がいたら、看護師さんからケアマネジャーに助言してくださったりしています。

そして、そうした活動からつながりができて、一緒に勉強会をするなど、多職種での協力関係を作ることができています。訪問看護ステーションの所長さんには、「これまで運動をしてほしい方に対して看護師が対応していたようなケースも、浜通りに依頼が行くようになり、それぞれの専門性に応じた棲み分けができています」と、うれしい言葉をいただいたこともあります。

昨年度からは南相馬市で始まった住民主体の介護予防事業にフォローとして入っていたのですが、今年度は市職員の方に通所介護事業所向けの勉強会など一緒にやりませんかと声を掛けていただける機会も増えて、つながりを深めることができているなと感じています。これからも、もっと地域に溶け込んで、地域を元気にしていくことができるようにがんばっていきたいと思います。

浜通り訪問リハビリステーション スタッフ
浜通り訪問リハビリステーション スタッフ
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