広報誌No.23 特集「介護予防体操~シルバーリハビリ体操と理学療法士~」

ごあいさつ

数年前までは平均寿命が大きな関心でしたが、現在では健康寿命が大きな関心の的であり、国家的課題となっています。この健康寿命を阻害する三大要素があり、脳血管疾患、転倒骨折、認知症となっており、これらは寝たきりになる可能性を秘めているのです。

これらを予防するためには共通して"運動"が有効とされています。脳血管疾患は生活習慣病から引き起こされます。生活習慣病とされている高血圧・高脂血症等には運動が大きな効果を発揮します。また、転倒予防では1日に飲む薬の数が多い人ほど転倒しているというデータがあります。高齢者の場合、薬を飲む理由は生活習慣病と疼痛に起因していることがほとんどです。関節痛も運動が効果的であることは言うまでもありません。また、最近では認知症予防として適度な運動が効果的であるとの論文が発表されました。

しかし、運動を効果的にすることは簡単ではありません。より効果的な運動を実践するためには運動の専門家である理学療法士に相談することをお勧めします。

公益社団法人 日本理学療法士協会
会長 半田 一登

Intoroduction

介護予防体操と理学療法士 ―なぜ介護予防体操が必要なのでしょうか?―

人は、必ず歳を取ります。そして、歳を取るということは徐々に身体が衰えていくということでもあります。身体の自由がきかなくなり"寝たきり"と呼ばれる状態になったとき、あなたは尊厳を守りつつ自分らしくいられるでしょうか。

我が国では、国民の皆さまが住み慣れた地域でいつまでも自分らしく暮らしていくために「地域包括ケアシステム」を提唱し、各地での様々な取り組みを支援しています。お住いの地域の元気アップ体操教室に参加なさっている方も、おられるのではないでしょうか。

本誌では「シルバーリハビリ体操」の提唱者である茨城県立健康プラザ管理者・大田仁史様をお迎えして、介護予防体操におけるリハビリテーションの考え方の重要性と、今後の展開について皆さまにお伝えします。

協会の理念

Feature 【対談】シルバーリハビリ体操と理学療法士

我が国の限られた財源の中で、国民の皆さまの健康と幸福、尊厳を守るために理学療法士たちは全国で様々な取り組みを行っています。2017年の理学療法週間全国一斉イベントでは、従来のイベントに加えて「介護予防とシルバーリハビリ体操」にちなんだ公開講座等も行っています。
すでにお住いの地域の元気アップ体操などにご参加いただいている方もおられると思いますが、なぜ「シルバーリハビリ体操」をモデルとして取り入れているのか、提唱者である大田様をお迎えして、皆さんにご紹介します。

茨城県立健康プラザにて
茨城県立健康プラザにて

テーマ1 シルバーリハビリ体操の良いところ

大田 国民の皆さんは「リハビリテーション」についてご存知でしょうか。「リハビリテーション」の語源は「ハビリス」ですが、「ハビリス」とは「ふさわしい」「適している」という意味です。つまり、「リハビリテーション」とは「障害を負っても、歳を取っても、人間らしく暮らすことであり、最期は人間らしい姿であること」と定義されます。
シルバーリハビリ体操の大きな特徴はこの「リハビリテーション」の要素が入っているところで、「最期まで人間らしい姿を保つ」ために行うものです。だからこそシルバーリハビリ体操は、健康維持のため身体を動かすという地域の元気アップ体操と異なり、『自分の尊厳は自分で守る=自助』という大きなテーマを含んだ体操なのです。

斉藤 シルバーリハビリ体操は、住民の方々と共にアクションを起こしてこられたという点で大変意義深いですよね。実際、制度の整備などは後から行われましたから。

大田 制度への過度な依存は危険です。なぜなら、一定期間の中で大きく方向性が変わる可能性を含んでいるからです。したがって、住民が中心となるような仕組みを作り、何があっても崩れないようにしていかなければなりません。具体的には、まず住民の中から積極的に関わっていただく指導士を公募してリハビリテーションの理念から共に学び、その上でその方々をサポートしながら組織を作っていきます。最終的には、住民の皆さんお一人おひとりの主体的な意識が向上し、お互いがお互いを支え合うという『互助』の仕組みが構築されていく。シルバーリハビリ体操はそのような仕組みの上に成り立っています。

大田 仁史氏(茨城県立健康プラザ管理者 茨城県立医療大学付属病院名誉院長)

大田 仁史氏(茨城県立健康プラザ管理者 茨城県立医療大学付属病院名誉院長)

テーマ2 なぜ『自助・互助』が重要なのでしょうか

斉藤 シルバーリハビリ体操に込められた自分の尊厳は自分で守るという意識が国民の皆さんの中に根付くことで、入院や介護が必要な立場となった時にもそれらが生きるというわけですね。

半田 かつて医療施設で理学療法士として働いていた時、老人会の方々と一緒に、脳血管障害や認知症について、初発症状はどのようなものか、いざとなったらどこの病院に行ったらいいかなどを勉強して、認識を共有するようにしていました。いつも出会っている人であれば、あの方、最近少し様子が変わった等、変化が分かります。それはつまり、自分の健康をどう守るか=『自助』、お互いに健康をどう守り合うか=『互助』、ということです。

大田 生産年齢人口(15〜64歳)が減り、65歳以上人口は増えていく、という我が国を支えるためには、65歳以上の方にも『自助』の意識を持っていただかねばなりません。そしてさらに『互助』という意識を持っていただくことが大事ですね。

斉藤 秀之(公益社団法人 日本理学療法士協会 副会長 )

斉藤 秀之(公益社団法人 日本理学療法士協会 副会長 )

テーマ3 理学療法士が出来ること

半田 実際には、家族同士の『互助』には非効率的な面が見られます。私たち理学療法士は、「高齢者本人を直接的に支える」という考え方から、「高齢者を支えている人たちを支える」という、いわば二段階的な『互助』の考え方にシフトしていくべきですね。
例えば、認知症の方の介護をする家族を支えるなど、身体づくりの専門家である理学療法士が介入することで、より効率的なサポートができたらと思っています。

大田 いくら制度を整備してもカバーできない部分は必ずあります。その隙間にある真のニーズを探り出してマネジメントすることも、理学療法士の皆さんにしていただきたいところです。

半田 私は38年間、理学療法士として働いてきましたが、素晴らしくやりがいがありました。様々な障害を持った方々の喜びや悲しみに触れるなかで、自分自身も変わっていきました。患者さん、障害をお持ちの方々は、いつでも理学療法士を見ているのです。私たちは、持てる力すべてで応えるべく、日々研鑽しています。

大田 すべての方に真摯に寄り添うことができる医療専門職であり、志を高く持たれている理学療法士の方々と共に、国民の皆さんのため、これからも頑張っていきたいですね。

半田 よろしくお願いいたします。

半田 一登(公益社団法人 日本理学療法士協会 会長)

半田 一登(公益社団法人 日本理学療法士協会 会長)

【概要】
体操指導士として養成された住民が主体となり、住民同士の『自助・互助』による介護予防活動を促進。理学療法士は助言などを通して引き続きサポートをしていきます。

Information 理学療法士に会いに行こう!「理学療法の日特設サイト」公開中!

理学療法の日とは?

昭和41年7月17日、110名の理学療法士によって日本理学療法士協会が結成されたことにちなみ、7月17日を「理学療法の日」と定めています。 また、この日を挟んだ一週間を「理学療法週間」として、全国各地で様々なイベントを開催しています。

介護予防・健康増進キャンペーン 全国一斉イベント開催

「理学療法の日」に関連して、テーマをしぼった一斉イベントを開催しています。
今年のテーマは「介護予防・健康増進」です。お住いの地域のイベント情報をチェックしてみてください。

理学療法の日特設サイトはこちら

笑顔の肖像

全国で活躍する本会会員の「笑顔」をご紹介します。

  • 国立大学法人 電気通信大学大学院 情報理工学研究科博士(医学)
    博士研究員、理学療法士
    堀田 一樹さん

私は2013年に北里大学大学院で博士課程(医学)を修了した後、米国フロリダ州立大学医学部に研究者として留学しました。帰国後は、現職の電気通信大学で独立した研究者を目指しています。

私は、微小血管の研究を続けてきました。微小血管の障害は視覚、認知、運動機能障害の原因となるため、"小さな"血管の障害は"大きな"問題なのです。大学院在籍時に、私の人生を変える論文と出会いました。ラットの骨格筋から生体外に取り出された微小血管を顕微鏡で観察することで、血管機能を評価する研究でした。これまで確実な治療法のなかった微小血管障害ですが、動物実験の結果から運動療法の有効性が示されたのです。この論文の筆頭著者に勇気を出して手紙を書いたことがきっかけで、渡米に至りました。私は元々英語が得意ではなく、海外の研究者との繋がりがあったわけでもありません。確かに、言葉や文化の壁に苦労はしましたが、明確な目的と確固たる情熱があれば研究留学は可能です。

米国で研究を進めるうちに、本来の血管形態・機能をみるには、血管を取り出さずに生体内での観察が必要と感じるようになりました。そこで、私は電気通信大学の光工学の技術をお借りして、生体深部の高解像度画像が取得可能な2光子レーザー顕微鏡を用い骨格筋微小血管の三次元構造を観察する手法を確立しました。この手法を用い、生体内の骨格筋微小循環の調節機構を明らかにしようとしています。未だ道半ばですが、顕微鏡を通して理学療法の未来を想像しています。

全体のPDFはこちら

トップへ戻る