棘上筋の筋力強化に最適な運動とは?

CRAIG E. BOETTCHER,KAREN A. GINN,and IAN CATHERS.:Which is the Optimal Exercise to Strengthen Supraspinatus?
Med.Sci.Sports Exerc. 2009;41:1979-1983.

PubMed PMID:19812522

  • 抄録No.1109-2
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年9月1日

【抄録】

背景

腱板構成筋群は、肩関節運動において関節窩に上腕骨頭を求心位に引き付ける重要な役割がある[6.9.13.]。そのため、特に棘上筋のエクササイズに目が向けられている。
棘上筋の筋力強化エクササイズの最初の提案は、1982年JobeとMoynes[7.]が報告しており、“empty can”肢位として知られている。“empty can”肢位を実質的に改良した“full can”肢位[8.]は、疼痛の誘発が少なくより上質な代用として、後に紹介されたものである。その他、ベッド上での腹臥位で肩関節中間域(約100度位)の挙上位[3.10.]、ペンダント肢位と称される上腕体側位の外旋[6.]、ベッド上で腹臥位での肩関節外転位外旋肢位(外旋90度位)[1.16.]の3つの肢位の報告がある。
残念なのは、これら5つの肢位間で棘上筋の活動性を同時に比較している研究はなく、棘上筋エクササイズといえば“empty can”と“full can”肢位[4.14.]を用いられることが一般的であった。

目的

肩関節外転運動には棘上筋と三角筋の間にフォースカップルが形成されている。
肩関節の動的安定性に腱板構成筋のひとつである棘上筋は、外転時の三角筋による上腕骨骨頭の上方移動を防ぐ役割があり[13.15]、その筋力強化は肩関節のリハビリテーションプログラム上重要である。近年、研究者らは“肩関節周囲筋、特に三角筋の活動を最小限にした上で、棘上筋の筋活動を最大に引き出すべきである”[11.12.]との考えをもとに、棘上筋の筋力増強で最善のエクササイズを検討している。
本研究でもこの考えに基づき、棘上筋のハイレベルな改善で知られている5つの肢位に対して、棘上筋の最大筋活動を引き出すエクササイズを決めるために棘上筋、三角筋、棘下筋の筋活動レベルを比較し検討した。

方法

対象は健常者15名(男性9名、女性6名)、平均年齢28.4歳(19~47歳)。
筋電図は表面電極およびワイヤー電極(棘上筋、棘下筋)を用いた。筋電図は5つの運動肢位における最大の等尺性収縮時を、健常者15名の利き手の棘上筋、棘下筋、三角筋3線維(前部、中部、後部線維)から導出した。表面電極は三角筋の3線維、ワイヤー電極は棘上筋と棘下筋に使用した。それぞれの電極の導出部位は、Kellyら[8.]とGeiringer[5.]の方法に準じた。統計処理は対応のある二元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を用いた。危険率は5%未満を有意差ありとした。
なお、本研究は大学倫理委員会の承認および対象者の同意を得ている。

結果

試験したすべての運動肢位の棘上筋の筋活動レベルには有意な差は認めなかった。“full can”と“empty can”の間には、すべての筋の活動レベルに統計上の違いはなかった。外旋を行った2つの運動肢位では、“full can”、“empty can”と腹臥位挙上肢位より三角筋の筋活動は有意に低値を示した。棘下筋の筋活動は、外旋運動の間、棘上筋より高値を示した。

考察

棘上筋の筋力強化に最適なエクササイズは、とりわけ三角筋の活動を最小限にした上で、棘上筋の筋活動を最大に引き出すべきであるという考えのもとで行ったこの研究では、健常者の利き手側の肩関節を対象として、ペンダント外旋肢位と腹臥位外旋肢位でのエクササイズが“full can”、“empty can”と腹臥位挙上肢位より棘上筋の筋力強化に妥当である(論理的である)ことが示された。

【解説】

棘上筋の筋力強化エクササイズとして広く認識され、臨床における使用頻度の高いエクササイズは“empty can”と“full can”肢位であろう。本研究では“empty can”、“full can”肢位と、この他に報告されている3つの肢位における棘上筋の最適なエクササイズについて、特に三角筋の活動を最小限にした上で、棘上筋の筋活動を最大に引き出すべきであるという考えのもとで筋電図学的[12.17.]に検証している。
その結果、5つのエクササイズの間には棘上筋の筋活動レベルに統計学的な違いはなく[10.11.]、三角筋の筋活動レベルが低値でかつ棘上筋に高い筋活動を確認したのは、運動肢位に外旋が組み合わされたペンダント肢位外旋と腹臥位外転位外旋肢位であった。さらに、肩峰下インピンジメント症状[8.]を回避することに配慮すれば、疼痛を誘発する挙上位より内転位で行うことができるペンダント肢位外旋が都合がよいとしている。
“empty can”エクササイズを行う際には肩関節が内旋位なので、疼痛の誘発肢位と肩峰下インピンジメント症状に配慮すべきである[4.11.18.]。また、“can”エクササイズが選択できない場合にも、ペンダント肢位外旋エクササイズの棘上筋に対する有効性を指摘している。それは、棘下筋は関節窩に上腕骨頭を求心位に引き付ける棘上筋と類似した役割[2.9.13.]を有していることと、検証したエクササイズの中でもっとも棘下筋の筋活動が高値を示すとともに、上述したように棘上筋の高い筋活動レベルに差がないことを理由としている。インピンジメント症状の改善に伴い、棘上筋のエクササイズは腹臥位での肩関節外転位外旋肢位に変更することで、より機能的な肢位で行うことができる。

本研究では、棘上筋の筋力強化に効果的であると報告された5つのエクササイズを検証し、外旋が組み合わされた肢位でのエクササイズが最適であると結論付けているがこれがすべてではなく、今後の研究でより満足できる肢位やエクササイズ方法の検証に期待したい。また、健常者を対象とした研究なので、症状を有する肩関節に対して同様の検証を行い、その筋活動の反応を確認する必要がある。

【文献】

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