WEBページで読む Enjoy Your Life ウィメンズ・メンズシリーズ
「Enjoy Your Life」シリーズは「いきいきと生きることを支える理学療法」をコンセプトに、ライフステージごとに国⺠の疾病予防・健康増進に関する情報をお届けします。
はじめに
人生にはさまざまなライフステージがありますが、どの時期も楽しみながら過ごすことが、心身の健康を保つ上で大切です。理学療法士は、個々の身体機能の向上や障害の予防を目指すだけでなく、心と体が調和した、より充実した人生をサポートしています。
人の一生には、性別や年齢、環境によって異なるからだと心の変化があります。女性と男性、それぞれに特有の身体的特徴や生活上の課題がありますが、お互いの違いを理解し尊重することは、健康的でより豊かな暮らしにつながります。
本冊子「Enjoy Your Life」ウィメンズ・メンズシリーズは、性別や年齢を問わず、すべての方がお互いを思いやりながら健康的に生きるためのヒントをまとめました。「産前・産後のケアからだの変化を知ろう」「女性オフィスワーカーの健康管理」「骨からはじめる健康づくり」「スポーツライフを楽しもう!」の4つのテーマを通して、理学療法士の専門的な視点から、科学的根拠に基づいた実践的な知識を紹介しています。日々の生活の中で、健康的に体を動かし、充実した人生を送るために、ご自身だけでなく周囲の方々の健康管理にもお役立てください。
皆さまがどのような環境にあっても、いきいきと活動的な生活を楽しめるよう、この冊子が皆さまの人生をより豊かにする一助となることを願っています。

産前・産後のケア からだの変化を知ろう
─産前産後をすこやかに過ごすために─

妊娠中、そして産後のからだはどう変化する?
妊娠中のからだの変化
妊娠するとお腹が大きくなるにつれて、姿勢にも変化がおこります。姿勢の変化は個人によって様々ですが、例えばお腹の重みで腰が反りぎみになったり、骨盤が前に出て肩が丸まり猫背のような姿勢になります(図1)。こうした姿勢の変化自体は自然な適応であり、赤ちゃんを迎える準備が着実に進んでいるサインですが、腰への負担が増えることで腰や骨盤に張りを感じることもあります。また、妊娠中に分泌されるホルモン(リラキシンなど)の作用で、全身の関節がゆるみやすくなります1)。赤ちゃんの成長とともにからだへの負担が増えますが、関節がゆるくなることで、妊娠中はからだを支えたり動くことが一苦労になります。
しかし、これらの変化は赤ちゃんを産むためにからだが適応している証でもあります。赤ちゃんの成長とともに自身のからだの変化を楽しみつつ、その変化に気をつけることで、不調への対処もしやすくなるでしょう。
図1 反り腰・骨盤が前に出て肩が丸まり猫背姿勢
出産後のからだの変化
出産ではからだに大きな負担がかかるため、産後1〜2ヶ月はあまり無理をしないようにしましょう。赤ちゃんと過ごす新しい生活を健やかに送るためにも、無理のないペースでからだの回復をサポートしていきましょう。出産によって、骨盤を支える靭帯や筋肉が一時的にゆるみ、からだを支えにくくなったり、不安定さを感じることもあります。特に、骨盤の底で子宮や膀胱を支える筋肉である骨盤底筋群(図2)は、妊娠と出産で伸ばされ弱くなりがちです2)。その結果、くしゃみや大笑い、小走りのタイミングで尿がもれやすくなることもあります。
図2 骨盤底筋群
よくみられる産前産後の不調
妊娠中から産後にかけて、腰部や骨盤の痛みを訴える方が多くいます。特に妊娠中期から後期にかけて症状が増える傾向にあります3)。骨盤の痛みは、骨盤の後ろや尾骨の辺りだけでなく、前方の恥骨の辺りにも生じることがあります。いずれも、赤ちゃんが大きくなることと、関節がゆるくなって不安定になることが一因です。寝返り、起き上がり、歩くときに痛みを感じる場合は、運動や骨盤ベルトなどで支えると楽になることがあります。また、産後は育児にともない腰痛や肩こりが増える傾向にあります。授乳で前かがみの姿勢が続いたり、赤ちゃんの重みを骨盤で支えるような姿勢(図3)を続けることで、肩や腰に負担が増えるためです。また、産後は特に骨盤底筋群が弱くなっているため、くしゃみや大笑いなど腹圧が上がることで尿がもれる「腹圧性尿失禁」の症状が出やすくなります2)。無理のない生活を心がけることで自然と回復することも多いので、あせらずに回復を待ちましょう。
図3
症状が出たらどうする?
妊娠中や産後の不調の多くは、筋肉に負担がかかり、姿勢や動きの不良を招くことでおこります。姿勢や動きの改善には、固くなっている筋肉の柔軟性を高め、からだを支えるためのトレーニングが効果的です。ここでは簡単にできる運動をご紹介します。気持ちの良い範囲で、無理なく試してみてください。
脇腹と肩甲骨のストレッチング(図4)
まずは良い姿勢で椅子に座ります。背もたれにはもたれず、骨盤を起こして、両方の坐骨に体重がのっているとベストです。次に、頭の後ろに腕を上げ、右手で左肘を支えます。そこから、ゆっくりと息を吐きながら5秒間かけて右側にからだを倒しましょう。息を吸いながらからだを元に戻し、次は左手で右肘を支えます。そして、同じように息を吐きながら5秒間かけて左側にからだを倒します。これを1セットとし、3セット行いましょう。

図4
腹式呼吸(図5)
仰向けに寝て、両ひざを軽くたてます。両手をおへその少し下に置きましょう。お腹に当てた手で膨らみを感じられるくらいに、鼻からゆっくり息を吸い込みます。十分にお腹が膨らんだら、膨らんだお腹がしぼんでいくのを手で感じながら、口から息を吐きます。これを10回1セットとし、1〜2セット行いましょう。腹式呼吸では、息を吸ったら下腹部に空気が入ってきて、息を吐くと下腹部から空気が出ていくようなイメージで行うと良いでしょう。

図5 腹式呼吸
骨盤底筋トレーニング(図6)
骨盤底筋群は、尿道や腟、肛門を締める働きがあります。そのため、骨盤底筋トレーニングでは、尿を止める、または腟や肛門を締めるイメージで運動します。また、締めるだけではなく、少し頭側に向かって締めて「引き上げるイメージ」で行うとより効果的です。はじめは、前ページの腹式呼吸に合わせて優しく行うと良いでしょう。腹式呼吸のトレーニング時と同じ姿勢をとり、息を吐く際に「締めて引き上げるイメージ」で骨盤底筋群を収縮させます。息を吸う際には十分にリラックスしましょう。トレーニングのコツは、優しく行うことです。がんばり過ぎると、お腹やお尻、太ももまで力が入ってしまい、かえって効果がうすれてしまいます。体の他の部分はリラックスさせて、骨盤底筋群だけを意識して動かすように練習してみましょう。10回1セットとし、1〜2セット行いましょう。
私たち理学療法士は産前産後の不調に対して、一人ひとりの状態に合わせた専門的なサポートを提供することができます。もしセルフトレーニングで改善しない場合には、主治医である産婦人科医や、近隣の整形外科医へ相談し、理学療法士の指導を受けてみましょう。

図6
予防が一番!
産前産後は、新しい家族と出会える喜びに溢れた時期であるとともに、お母さんの心身には大きな変化が起こります。そのため、不調や不安を感じるのは珍しいことではありません。不調がつらいときには、無理をせず、必要に応じて主治医に相談や受診をし、周囲の人に頼りながら、自分らしく過ごす時間を大切にしていきましょう。また、毎日をさらに楽しむポイントは、不調を予防することです。不調がない時でも、からだの柔軟性を高めトレーニングをコツコツと続けてみましょう。赤ちゃんの成長とともに、自身のからだの変化を楽しみ、心地良い範囲で運動していきましょう。

女性オフィスワーカーの健康管理
─はたらく毎日を楽しもう!オフィスで輝く心とからだ─

近年、日本では多くの女性がオフィスワークの現場で活躍しています。結婚や出産を経ても働き続けることが一般的となり、働き方やキャリアに対する価値観も大きく変化してきました1)。社会の中で重要な役割を担う女性オフィスワーカーにとって、心とからだの健康を保ちながら、自分らしく働き続ける工夫はとても大切です。ここでは、日常生活でのセルフケア、ライフステージに応じた工夫、理学療法の活用法など、健やかに働き続けるためのヒントをご紹介します。
心とからだとの上手な付き合い方
オフィスで活躍する女性は、日々の業務をこなし、女性特有の心とからだの変化にも向き合っています。ここでは、女性が経験しやすい体調変化と、より快適に働くための工夫を紹介します。
①姿勢を整えて、からだをもっとラクに
長時間のデスクワークは、肩や腰に負担がかかりやすく、肩こり、腰痛などからだの疲れを感じやすい2)ものです(図1)。特に女性は男性との筋力や骨格の違いから姿勢が安定しにくい傾向があります3)が、日常の小さなケアで快適に働くことができます。例えば、椅子や机の高さをからだに合わせて調整するなど、ちょっとした工夫でよりラクに働くことが可能です。

図1 デスクワーク中の崩れた姿勢
②ホルモンバランスとライフステージに合わせたケア
女性はライフステージごとにホルモンの影響を受けやすく、心とからだのリズムが変化しやすい時期があります4)。月経前症候群(PMS)や月経困難症など、体調が変化しやすいと感じることもありますが、大切なのは「我慢すること」ではなく、自分のからだのサインに気づき、必要に応じて早めにケアを取り入れることです。また、次ページで紹介するような職場でのサポートを得ることで、より快適に自分らしい働き方が実現できます。
③更年期世代のからだと心の変化に寄り添う
40代後半から50代にかけて訪れる更年期は、女性にとって心とからだのバランスが大きく変わる時期です。ほてり、疲れやすさ、気分の変化、不眠など、人によってさまざまな症状があります4)。これらのサインをからだの声として受け止め、適切なケアを行うことで、より快適に過ごすことができます(図2)。

図2 更年期世代の変化の例
毎日をもっと快適に過ごすための健康習慣
女性オフィスワーカーが心身ともに健やかに働き続けるためには、日常的な健康管理が不可欠です。日々のセルフケアは、心身の健康を保ち、仕事のパフォーマンスを高めるための大切な投資です。
①職場でできる簡単セルフケア
長時間座っているとからだに負担がかかりますが、ちょっとした工夫でからだがラクになります。

図3 わき〜足の付け根のストレッチ
②健やかな毎日のための3つの習慣
特に栄養・睡眠・運動は、心とからだを整える大切なポイントです。
通勤時のウォーキングも有効
③更年期を心地よく過ごすための工夫
女性オフィスワーカーにとって、更年期の体調変化は自然なからだのリズムのひとつです。正しい知識と適切なケア、そして理解ある環境があれば、より快適に働き続けることができます。
職場での理解と配慮のポイント
更年期を前向きに過ごすためには、職場全体での理解と協力が大切です。
こうした取り組みにより、更年期世代の女性も安心して働き続けられ、すべての人にとって働きやすい職場づくりにつながります。
理学療法でかなえる快適な働き方
女性オフィスワーカーが抱える心とからだの変化に対し、理学療法は有効なサポートを提供します。理学療法士は一人ひとりのからだの状態を評価し、無理なく続けられる科学的根拠に基づいたプログラムを提案します。
①疲れにくいからだをつくる姿勢ケア
理学療法士は、肩や腰の動きを改善するストレッチや、体幹を安定させるトレーニングを提案します。オフィスで取り入れやすい運動を習慣にすることで、ラクに動けるからだづくりが可能になります。
②ライフステージに合わせたからだのケア
月経周期や更年期など、女性特有の体調変化にも理学療法は有効です。例えば、骨盤底筋など骨盤周囲の筋肉を鍛えることで血流を促進し、月経痛を和らげることも期待できます。
③ 更年期を快適に過ごすための理学療法
更年期に起こりやすい体調の変化には、科学的根拠に基づいた運動療法が役立ちます。骨密度を保ち、筋力やバランスを整えることで、安心して動けるからだづくりを理学療法士がサポートします。
まとめ

理学療法は、理学療法士があなたと一緒に取り組み、「自分らしく働き、暮らす」ことに向けて伴走します。自分のからだの声に耳を傾け、適切なケアで未来の自分を育んでいくこと。それは、より豊かな人生への素晴らしい一歩となるでしょう。
骨からはじめる健康づくり
-いつまでも自分の足で歩くために-

骨を守れば、人生はもっと軽やかに
みなさんは「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」という言葉を耳にしたことがありますか。骨粗しょう症の「粗(そ)」という字は「あらい」、「鬆(しょう)」という字は松の葉の重なりから向こうが透けて見えるさまのことを示しており、文字通り骨粗しょう症とは骨がスカスカにもろくなってしまう状態をいいます(図1)。骨は本来、私たちのからだを支えてくれる丈夫な柱のような存在ですが、その強さが失われてしまうと転倒や骨折のリスクが高まります1,2)。特に太ももの骨や背骨を折ってしまうと、その後の生活の質が大きく変わってしまうこともあります。
しかし、日常生活の工夫次第で、骨の健康を維持することができ、元気に過ごすことができます。骨を守ることは、人生を最後まで軽やかに歩むための大切な準備となります。人生100年時代、骨はまさに私たちの一生のパートナーです。

図1 骨の断面図
骨にも成長期・安定期・熟成期がある
骨の強さには人の人生のように一生の流れがあります。子どものころにはグングンと伸びていき、20歳ごろにピークを迎えます。そこからは少しずつ減っていきますが、その減り方やケアのポイントには男女差が見られます(図2)。女性は閉経にともない女性ホルモンの分泌(エストロゲン)が減少することで、骨量が急激に減りやすくなります。この変化は「リスク」として語られることが多いですが、見方を変えれば「骨をケアするチャンス」でもあります。女性は40歳から骨粗しょう症検診の対象になりますので、早めに検診を受けることで、生活習慣を見直すタイミングになるでしょう。
一方で、男性は緩やかに骨量が低下していきます。そのため大きな変化を感じにくいのですが、呼吸器の病気や糖尿病などがきっかけで骨の構造部分(骨質)が劣化し、骨の強さが低下することが知られています(図3)。運動不足や偏った食生活、喫煙や飲酒などが続くと骨の質も悪くなってしまうため、早めの対策がカギを握ります。骨の健康の維持や骨粗しょう症の悪化を防ぐことは何歳からでも可能です。後述する「骨の貯金5カ条」も参考にしてみてください。

図2 骨量の一生
骨量はおおよそ20歳あたりで最大を迎え、
成人期で維持した後、加齢に伴い減っていきます。

図3 骨の強さを構成する要素
骨の強さを維持するには骨密度と骨質(骨の構造部分)
が健康である必要があります。
あなたの骨は今どんな時期?
骨のライフステージを人間にたとえてみましょう。
子ども期:「骨の種をまく時期」です。外で元気に遊んだり、栄養をしっかり摂ることで骨の土台がつくられます3)。この時期にしっかりと骨の成長を促すことが大切です。
成人期:「骨を育て、守る時期」です。運動や食生活を整えることで、骨量のピークを保ち、骨を長持ちさせることを目指します。
高齢期:「骨をいたわり、転ばない工夫をする時期」です。骨量だけでなく、骨質やバランス能力を守ることで転ばないからだづくりが大切になります。転ばないための生活や住宅環境の見直しも行うと良いでしょう(図4)。

図4 室内で転びやすい場所と対策
骨がよろこぶ運動、今日から3分だけ!
骨は刺激を与えることで強くなります4)(図5)。ジャンプや階段の上り下りのような動作は骨に「ビックリ刺激」を与え、その強化を促す働きがあります。ハードな運動である必要はありません。毎日の生活の中に少し取り入れるだけでも十分な効果が期待できます。週に2〜3回程度を行うことでも効果があると言われていますので、ぜひあなたなりの方法で3分だけでも実践してみましょう。さらに片足立ちなどのバランス運動も大切です。転倒を防ぐ力を育てることで、骨折リスクの低下にもつながります。骨を直接強くするだけでなく「転ばない工夫」も骨を守る立派な方法なのです(図6)。
図5 骨の強さを維持するには骨に刺激が必要
骨に衝撃が加わると、骨細胞が反応し、
骨を作る細胞が働きだします。

図6 骨粗しょう症、転倒予防のためのおすすめ運動
成人期:積極的な運動で骨量の増加・維持をめざす
壮年期:週2~3回のウォーキングがおすすめ
高齢期:立ち座り運動や片足バランス運動がおすすめ
おいしく食べて、骨にごほうび
骨の健康を守るためには、食事も大事です(図7)。

図7 骨がよろこぶ栄養素
これらの食事を「義務」として食べるのではなく、「骨へのごほうび」と考えて楽しみながら食事に取り入れることが大切です。夕食の献立に鮭のホイル焼きを加えたり、間食にヨーグルトを取り入れてみたり......小さな工夫で自身や家族の骨を守っていきましょう!
今日から始める骨の貯金5カ条
1. 階段上り下り10回や3分スクワット
2. 食事のときに牛乳や小魚を1品プラス
3. 朝の散歩で日光浴
4. 転ばない工夫(室内の段差や散らかりをチェック)
5. 女性は40歳から骨粗しょう症検診
どれも特別なことではなく、生活の中で簡単にできることばかりです。この5カ条を今日から始めて、骨粗しょう症を予防していきましょう。運動、食事、生活習慣、どれもはじめは小さな行動から始まります。「骨を守る」ということは義務や制限ではなく、暮らしを楽しむための工夫です。骨をいたわりながら、もっと軽やかに、もっと自由に過ごしましょう。あなたの人生をより豊かにする第一歩を、今日から始めてみませんか?


スポーツライフを楽しもう!
─成長期のからだを大切にするために─

楽しく動いて、未来のからだを育てよう
子どもの健康づくりには運動が欠かせません。しかし「運動不足」による課題がある一方で、「運動のしすぎ」や「競技レベルの高度化」によって、成長期ならではのケガやからだのトラブルが起こることもあります。2021年に笹川スポーツ財団が行った調査によると、4〜11歳の子どもの約8.4%が「この1年間にスポーツや運動遊びで1週間以上休むようなケガ」を経験していました。さらに12〜21歳の若者では、競技レベルが上がるほどケガの割合も増え、トップレベルの競技者では約30%にのぼります1)。つまり、運動量や競技レベルが高くなるとからだへの負担も大きくなるのです。
とはいえ、これは「危険だから運動を控えよう」という話ではありません。むしろ「楽しく、無理なく、バランスよく」取り組むことで、未来のからだをより健やかに育てるチャンスとなります。
外遊びでつくる「・し・な・や・かなからだ」
日本スポーツ振興センターの調査によると、小・中学生では運動中のケガが多いことが報告されています2)。しかし、それは子どもたちが元気いっぱいに動いている証拠でもあります。特に小学生は、神経系が大きく発達する大切な時期で、この時期に外遊びやさまざまな運動を経験することで、「からだを思い通りに動かす力(コーディネーション能力)」が育まれます。この力は、ケガを防ぐだけでなく、走る・跳ぶ・投げるといった基本の動きの基盤になり、運動をもっと楽しむことにも役立ちます(図1)。

図1 さまざまな運動の経験
10代は、骨を育てる「ゴールデンタイム」
女性の骨は思春期から強さを増し、18歳〜20歳代ごろにピークを迎えます。つまり、10代は「骨の貯金」ができる大切な時期なのです3)。運動とバランスの良い食事、カルシウムやビタミンDなどの栄養を意識することで、骨はぐんぐん育っていきます。一方、無理な食事制限や体重管理は、骨の成長を妨げてしまうこともあります。からだをしっかり支える強い骨をつくることは「未来への投資」です。10代のうちにしっかり骨を育てておくことで、大人になってからもスポーツや日常生活を思い切り楽しむための力になります。
女の子のからだは「伸びしろ」がいっぱい!
女子の骨格は男子に比べて骨盤が横に広いという特徴があります(図2)。そのため、走ったりジャンプの着地をしたりするときに、膝が内側に入りやすかったり、つま先が少し外側を向きやすかったりします。これは成長期のからだの変化とも深く関わっています。身長がぐんと伸びたり骨が成長するスピードに対して、筋力や柔軟性の発達が追いつかないことがあり、その時期には一時的に膝の動きが不安定になることもあります。けれども、この時期は「からだの使い方を学ぶ絶好のチャンス」でもあります。太ももやお尻まわりの筋肉をうまく使えるようになると、動きが安定し、パフォーマンスも大きく向上します。成長期のからだは「弱さ」ではなく「伸びしろ」にあふれています。正しい動きを身につけ、日々のトレーニングでの工夫を意識して、安全にスポーツを楽しみましょう。
このように、女子のからだは男子とは異なる特徴や変化があります。そのため、家族や指導者は、女子のからだの変化に配慮し、月経の周期や体調、精神的な変化にも気を配ることが大切です。無理をさせず、相談しやすい環境を整えることで、安心して運動に取り組めるようサポートしましょう。

図2 骨盤の男女差
成長期ならではの「骨端症」ってなに?
成長期の骨はまだ完成していないため、子ども特有のケガや病気が起こることがあります。その代表格が「骨端症(こったんしょう)」です。骨端症とは、骨の端にある「成長に関わる部分」でトラブルが起きる病気の総称です。例えば、膝のお皿の下が痛くなる「オスグッド病」、かかとが痛くなる「シーバー病」などが知られています。
「オスグッド病」と呼ばれる膝の痛みは、特にサッカーやバスケットボールをしている男子に多くみられます。男子は成長期の急激な身長増加や強い筋力の発達が関係して、膝にかかる力が大きくなりやすいことが原因です(図3)。一方、女子ではダンスや縄跳びなどで起こりやすい「シーバー病」という踵の痛みが目立つことがあります(図4)。男女で起こりやすい部位や動作が異なりますが、これらは、成長期の骨にくり返し負担がかかることや、体質的な要因が重なることが原因です。
正しく対応すれば回復できるものが多いので、無理に運動を続けず、気になる症状があれば早めに専門家へ相談するようにしましょう。

図3 オスグッド病

図4 シーバー病
子どものケガは・は・じ・めが肝心!
子どもが「痛い」と伝えられるよう、普段から安心して話せる雰囲気をつくることが大切です。「どこが」「どのように」「いつから」痛いのかを丁寧に聞き取りながら、表情や動きの変化を観察しましょう。子どもは痛みをうまく言葉にできないことも多いため、周りの大人が気づくことも大切です。強い痛みや腫れ、熱っぽさが見られるときには、まずは休ませて、医療機関に相談すると安心です。学校では養護教諭と協力しながら、変化を見守っていくことも大切です。子どもが無理せず、回復しやすい環境を整えることが安全と安心につながります。
また、成長期の女子は、月経の周期によって体調やパフォーマンスが大きく変動することがあります。精神的に不安定になることもあるため、周りの大人は日頃から体調の変化に目を向け、本人が話しやすい雰囲気をつくることが大切です。
理学療法士による予防の取り組み
理学療法士は、子どもたちのからだの使い方や発達の段階を専門的に評価し、ケガを予防するサポートができます。たとえば姿勢や動きをチェックして関節の負担を早めに見つけたり、走る・跳ぶ・投げるなどの基本動作を安全に身につける練習方法を指導したりします。また、バランス感覚や反応速度を育てる運動遊びや、柔軟性・筋力を高めるエクササイズも提案します。こうした取り組みは、子どもの「運動の発達」を助けるだけでなく、「ケガを未然に防ぐ」ことにつながります。子どものケガの予防には保護者や指導者の理解と協力が大事です。理学療法士は子どもの周りの大人と協力しケガの予防に取り組みます。
出典
産前・産後のケア からだの変化を知ろう
ー産前・産後をすこやかに過ごすためにー
1) Dragoo JL, et al. The effect of relaxin on the female anterior cruciate ligament: analysis of mechanical properties in an animal model. Knee. 2009;16(1):69-72.
2) Dai S, et al. Prevalence and factors of urinary incontinence among postpartum: systematic review and meta-analysis. BMC Pregnancy and Childbirth. 2023;23(761).
3) Salari N, et al. The global prevalence of low back pain in pregnancy: a comprehensive systematic review and meta-analysis. BMC Pregnancy and Childbirth. 2023;23(830).
女性オフィスワーカーの健康管理
ーはたらく毎日を楽しもう!オフィスで輝く心とからだー
1) 深井太洋.子育てと女性の就労ー国勢調査を用いた過去40年の就業の変化.日本労働研究雑誌 2024;9:50-62.
2) 高橋敏明, 他.コロナ禍における大学生の肩こり・腰痛に対する実態調査.愛媛大学社会共創学部紀要 2022;6-2:54-65.
3) 沢井史穂, 他.基本的日常生活動作中の体幹および下肢の筋活動水準の男女差.体力科学 2006;55:247-258.
4) 須永康代.女性のライフステージにおける身体的変化と健康課題.専門リハビリ 2021;20:59-63.
骨からはじめる健康づくりーいつまでも自分の足で歩くためにー
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4) Rector RS, et al. Participation in road cycling vs running is associated with lower bone mineral density in men. Metabolism. 2008 Feb;57(2):226-232.
5) 日本整形外科学会ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト.
https://locomo-joa.jp/ 閲覧日 2025.8.8
スポーツライフを楽しもう!ー成長期のからだを大切にするためにー
1)笹川スポーツ財団.4〜11歳のスポーツライフに関する調査.2021:142-143.
2) 日本スポーツ振興センター.学校等事故事例検索データベース.
https://www.jpnsport.go.jp/anzen/anzen_school/anzen_school/tabid/822/Default.aspx 閲覧日 2025.8.1
3) 女性アスリート健康支援委員会.女性アスリートの今と未来をまもる.
http://f-athletes.jp/download/pdf/170620_future.pdf 閲覧日 2025.8.1






