広報誌No.22 特集「一般財団法人 訪問リハビリテーション振興財団」
巻頭言
訪問リハビリテーション振興財団の歩み
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、東北・関東地方を中心とした広範囲にわたり甚大な被害をもたらしました。これを受けて、同年12月には「東日本大震災復興特別区域法」が施行され「訪問リハビリテーション事業所整備推進事業」が始動したのです。そして公益社団法人 日本理学療法士協会(以下、本会)は、被災地復興を第一義として、訪問リハビリテーション事業所(以下、事業所)の設置を推進することとしました。しかし、 事業所設置のためには、施設の経営や運営に関する経験、人材の確保、資金の問題など、多くの高いハードルが存在しており、地域で活動する本会会員の力のみでは、断念せざるを得ないのではないかという空気が流れていました。この状況を打開するために、本会および一般社団法人 日本作業療法士協会、一般社団法人 日本言語聴覚士協会の共同出資により、一般財団法人 訪問リハビリテーション振興財団(以下、本財団)が2012年10 月に設立されたのです。
共同出資のご提案をさせていただいた際、各協会会長より力強い同意のお返事をいただいたことは、今でも忘れることができません。それは、リハビリテーション専門職同士が、力を合わせて国民の皆さまのために立ち上がった、貴重な一瞬でした。
そして、同年11月には福島県南相馬市にて、第1号である「浜通り訪問リハビリステーション」が開設されました。これを皮切りに、翌2013年4月、岩手県宮古市に「宮古・山田訪問リハビリステーションゆずる」が2014 年10月には宮城県気仙沼市にて「気仙沼訪問リハビリステーション」が開設されました。現在は、全国から理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、総勢20名の仲間が集い、熱い思いをもって各事業所にて活動しています。なお本事業は、地域の医師をはじめ、ケアマネジャーなどの多職種と連携し、利用者一人一人のリハビリテーション目標の達成や、適切な他サービスへの移行、看取りへの対応などの実績を上げ、行政機関や関連団体から高い評価を受けています。本年は、復興特別区域制度の終了年度でもありましたが、地域住民をはじめ、行政機関や関連団体からの強い要望により、制度延長に伴って、事業所の運営を継続していくことが決定しました。
今後、本事業が、我が国における訪問リハビリテーションのモデルとなり、普遍的なサービスの在り方に結び付くことで、国民の皆さまの健康と幸福に寄与できるように取り組んでまいります。
公益社団法人 日本理学療法士協会
財団担当特任理事 松井 一人
Intoroduction
一般財団法人 訪問リハビリテーション振興財団の歩み
2011年
◆東日本大震災復興特別区域法 成立(12月26日)
東日本大震災復興特別区域法の施行により、初めて医療専門職による訪問リハビリテーション事業所の設立
2012年
◆公益社団法人 日本理学療法士協会、一般社団法人 日本作業療法士協会、一般社団法人日本言語聴覚士協会の出捐により、一般財団法人 訪問リハビリテーション振興財団設立(10月)
◆福島県南相馬市に「浜通り訪問リハビリステーション」設置(11月)
2013年
◆岩手県宮古市に「宮古・山田訪問リハビリステーションゆずる」設置(4月)
2014年
◆公益社団法人 日本理学療法士協会、一般社団法人 日本作業療法士協会、一般社団法人日本言語聴覚士協会からなるリハビリテーション専門職団体協議会より、訪問リハビリテーション管理者養成研修会・訪問リハビリテーション管理者研修会の運営受託
◆リハビリテーション専門職団体協議会より、訪問リハビリテーションリーダー会議、「訪問リハビリテーションフォーラム2014」の運営受託
◆宮城県気仙沼市に「気仙沼訪問リハビリステーション」設置(10月)
<事業所> ※2017年2月現在
【浜通り訪問リハビリステーション】(2012 年 11 月開設)
所在地:福島県南相馬市原町区萱浜字巣掛場5
職員構成:理学療法士5名、作業療法士1名、言語聴覚士1名
【宮古・山田訪問リハビリステーションゆずる】(2013 年 4 月開設)
所在地:岩手県宮古市大通 2-2-24 B 号
職員構成:理学療法士6名、作業療法士1名、言語聴覚士1名
【気仙沼訪問リハビリステーション】(2014年 10 月開設)
所在地:宮城県気仙沼市田中前 4-2-7
職員構成:理学療法士3名、作業療法士2名
浜通り訪問リハビリステーション
宮古・山田訪問リハビリステーションゆずる
気仙沼訪問リハビリステーション
【特集1】 訪問リハビリテーション 振興財団の歩み
訪問リハビリテーションとは
訪問リハビリテーションの目的は、リハビリテーションの専門家(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)が利用者の実際の生活の場にお伺いして、日常生活の自立と家庭内さらには社会参加の向上を図ることが目的です。
POINT
- 実際には、心身障害、生活障害、住環境等を確認して自宅生活の中で利用者自身の機能維持・向上を図りつつ、医療機関では行うことができない実際の生活場面に即した能力的な部分へのアプローチを行っていくことができるサービスです。
- 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の国家資格を有したリハビリ専門職種が、利用者本人と家族の生活再建、安定、発展を手助けするサービスです。
- 利用者本人と自宅環境との適合を調整する役割を持ち、自宅での自立支援に効果的なサービスです。
- ケアマネ等の関連職種と積極的に連携を図りながら、チームの一員としてその専門性を発揮することができます。
- 利用者が安心、安全にその人らしい在宅生活が継続できるように支援していきます。
訪問リハビリテーションの具体的介入内容
- 1. 病状の観察
- ・バイタルチェック(体温、脈拍、呼吸、血圧測定等)
- ・病状の観察や助言
- ・精神面の健康状態の確認と助言
- ・介助者の健康状態の確認と助言
- ・再発予防と予後予測
- 2. 日常生活への指導・助言
- ・日常生活動作(ADL)指導・身体機能(筋力、柔軟性、バランス等)の維持、改善
- ・痛みの評価と物理療法等の疼痛緩和
- ・福祉用具または補装具、住宅改修の評価と相談
- ・摂食嚥下機能やコミュニケーション機能の改善
- ・生活の質(QOL)の向上や趣味、社会参加促進のための助言
- 3. 介護相談
- ・療養生活の助言、相談
- ・家族への介護指導の助言、相談
- ・精神的な支援・福祉制度利用の助言、相談
1.病状の観察
2.日常生活への指導・助言
3.介護相談
一般財団法人 訪問リハビリテーション振興財団の実績
本財団は、訪問リハビリテーションなど在宅ケア事業の運営・運営支援および質の向上に関する教育、調査研究など、様々な活動を展開しています。住み慣れた地域でその人らしい生活を送っていただくことを目的としたリハビリテーションの提供が評価され、地域ごとの利用者数が増加しています(図 1)。また、行政からは、市町村の健康福祉事業への支援依頼をいただくなど、評価をいただき、それらに応える形で貢献しています。本財団を利用している方は運動機能や栄養状態の改善がなされ、目標達成による訪問リハビリテーション終了件数は増加しています。また、反対に死去などによる訪問リハビリテーション終了件数が減少するなど、数値としてその成果が表れています(図 2)。これは、利用者の QOL 向上の証といえます。
訪問リハビリテーション振興財団の地域貢献活動
- 1. 介護従事者を対象とした研修会開催
介護支援専門員および、介護福祉士などの介護従事者を対象とした研修会を年数回開催し、訪問リハビリテーションの役割や対象についての講義・事例紹介などを行っています。
- 2. 介護予防教室など、地域支援事業開催
事業所のひとつである浜通り訪問リハビリステーション(福島県南相馬市)では、地域住民が主体的に運動をきっかけとして交流できる場の設置運営を支援しています。その場での医療専門職の役割としては①運動や体力測定の意義の説明、②ハイリスク者への個別指導(自主トレや生活指導など)、③参加者への運動指導(体力測定の結果をもとにした運動指導)などが挙げられます。
特集2 一般財団法人 訪問リハビリテーション振興財団 設立から5年目を迎えて~被災地における訪問リハビリテーションの活躍~
2025年を目指しました地域包括ケアシステムでは、超高齢社会への対応として「施設から地域へ」「医療から介護へ」の二つを大きなメッセージとしています。いずれにしましても、在宅医療の充実が強く望まれています。 本誌では、「一般財団法人 訪問リハビリテーション振興財団 浜通り訪問リハビリステーション(福島県南相馬市)」運営5年目を迎え、公益社団法人 日本理学療法士協会会長半田一登が、事業所にて活動する理学療法士にお話をききました。
東日本大震災後に南相馬市で働こうとしたきっかけ?
半田: 2016年4月に発生した熊本地震をはじめ、我が国では多くの震災が発生していますが、震災から一定期間の時間が過ぎるとだんだん記憶から薄れてきているように感じます。皆さんは、なぜ震災で大きな被害を受けた南相馬市で働こうと決意したのでしょうか。
安部: 震災当時は福島県いわき市で働いていましたが、南相馬市の実家に帰省してみるとその被害状況や介護職等の人手不足に愕然とし、地元のために手助けができたらと思い、本財団の入職を決意しました。
長崎: 震災当時は大阪府で訪問リハビリテーションに従事していましたが、都市部の影響もあり、自分自身の中で理学療法士としての成長に悩んでいた時期でもありました。今後も訪問リハビリテーションに従事していくことを考えた上で、南相馬市に来たら理学療法士として更なる成長ができるのではないかという思いがあり、挑戦しました。
岩本: 震災当時は佐賀県で働いていましたが、本会のボランティアとして、宮城県の南三陸町に行く機会がありました。そこで非現実的な風景と環境を目の当たりにしたときの衝撃、沿岸部には訪問リハビリテーションが普及していない状況など、九州では考えられないことばかりでした。震災から2年経過しても復興が進んでいない状況を知り、理学療法士として被災地の地域に関わりたいと思い、南相馬市で働くことを決めました。
半田: 岩本さんはボランティアを経験してみてどうでしたか。
岩本: 私がボランティアに行ったのは、震災発生から4ヶ月経過していました。当時は、余震も頻発し、気候も暖かくなってきましたので、異臭や大量の虫が発生している状況でした。その中で、1週間という短い期間でしたが、高齢者、障がい者の自宅、避難所、仮設住宅などに伺い、理学療法士として「身体機能・日常生活動作評価」を行い、県職員の方に報告することが主な活動でした。当時は理学療法士としての経験が3年目ぐらいでしたが、評価が十分に行えているかという一抹の不安もあり、改めて「身体機能・日常生活動作評価」は理学療法士として「重要」だと感じました。
半田: 現在、厚生労働省から最も理学療法士に要望されているのは、リハビリテーションマネジメント、あるいは理学療法マネジメントです。理学療法士として、「身体機能・日常生活動作評価」、「問題点の抽出」、「プログラムの立案」などの提案を求めています。背景としては、東日本大震災発災直後の理学療法士の活動にあり、特に「身体機能・日常生活動作評価」の有効性が原点です。
安部 ちひろさん(理学療法士)
長崎 真幸さん(理学療法士)
被災地から紐解く、2025年以降の課題
半田: 皆さん被災地で活動されていますが、被災地特有の問題点はありますか。
長崎: 仮設住宅でコミュニティーができているところもあれば、十分でないところもあり、家がない方への対応に苦慮しました。活動と参加の面では、震災前まで暮らしていた地域に戻れない方々は、今後は、仮設住宅から災害公営住宅に移り住むなど、今まで暮らしていたところと違う地域で、再度コミュニティーを形成しなければならないという問題もあります。また、原子力発電所の事故による放射能の影響により、場所によっては畑仕事、山菜取り、魚釣りなど活動と参加につながる自然資源の利用ができないなか、仮設住宅などの狭い空間で不活発な生活を送ることで、身体機能の低下を及ぼす方もいらっしゃいました。そして、家族を失った方、住んでいた家を失った方、そういった方々の心の問題にも直面しました。
半田: 私も避難所で家を無くした人たちと出会ったときは、人生の一部を失ったような喪失感を感じました。病人やけが人は「家に帰る」という目的がありますが、津波で家が流されて家を無くしてしまった人たちはそうではありません。やはり今までとは異なった対応が必要でしたか。
長崎: そうですね。疾病や障がいを負った人は、これからの人生に対して失望感や諦めがあるからこそ、私たちの介入で失望を希望に変えていけるよう働きかけますが、家を無くした方、家族を亡くした方とかは、身体は生活できるレベルですが、失望感を拭えないため活動性も落ちている方もいました。そういった方に対しては、身体に対するリハビリテーション以外にも心のケアが必要に感じました。
半田: 長崎さんの抱える問題がこれからの日本の2025年以降、大きな課題になるのではないかと思います。国の指針でこれから病床が20万床以上削減されていきますが、在宅医療は30~40万人増えると言われています。在宅医療を個々で展開することには多くのリハビリテーション専門職の人員が必要になるので、心のケアも行い、日常から介護予防に取り組み、家族・親戚・地域で暮らしを助け合う関係性を築いていく必要があります。
岩本 歩さん(理学療法士)
多職種連携による訪問リハビリテーションが活きる道
半田: 本財団の活動については、多くの関係者から高い評価を受け、これからは市町村事業との関わりが必要になっていくと思います。利用者さんの個別の問題と集団的な介護予防等などの活動、この2つの側面は最低限実施しなくてはいけない課題になるでしょう。
安部: 当事業所では、訪問リハビリテーションとは別に市町村事業としてサロンの活動を行っています。業務を調整しつつ市町村事業を実施していますが、人手が足りないのが本音です。また、2016年度から地域包括システムの推進として、市が主体となって4つの部会、「医療と介護の連携部会」、「認知症支援部会」、「生活支援体制整備部会」、「介護予防部会」が設立し、当事業所では3つの部会(認知症支援部会、生活支援体制整備部会、介護予防部会)に関わることになり、行政、他職種の連携によって、新たな発見が生まれることができました。具体的には、2017年度より「失語症の方の交流会」を社会福祉協議会と協力して行う予定になり、この話し合いをきっかけに、リハビリテーション専門職の必要性を理解していただき、「難病の方の交流会など同じような境遇の人たちのサポートとかに繋げていきましょう。」という話にも発展しました。行政、他職種の方が「リハビリテーション専門職は何ができる人」というのを正しく理解してくれたからこそ、このような話に発展したのかなと思います。
半田: 確かに他職種と関係性を深めていくと、リハビリテーション専門職への理解が深まり、仕事も増えていきますね。これからの訪問リハビリテーションのあり方を示すため、現在の活動を積極的に行っていただきたいと思います。皆さん、是非これからも頑張ってください。
公益社団法人 日本理学療法士協会 会長 半田 一登
笑顔の肖像
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リハケアネット訪問看護ステーション
理学療法士 日當 泰彦さん
私は、理学療法士になって10年目、現在は訪問看護ステーションに勤務しています。 我が国は、総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)が26.7%と、超高齢社会に突入していますが、このような社会背景のなか、国は団塊の世代が75歳以上となる2025年年を目途に可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制である、地域包括ケアシステムの構築を目指しています。地域包括ケアシステムでは在宅医療と介護の連携が鍵と言われていますが、在宅の仕事をしているなかで、連携がまだ不十分と感じることがあります。急性期病院や回復期病院を退院して自宅復帰される際や、複数事業所の他職種の支援者が関わる際に、日程の関係でカンファレンスに出席できないことがあり、情報が得られにくいと感じることがある現状で、対象者がスムー ズに自宅復帰できるため、安定した生活を送れるために双方が歩み寄ろうとすることが重要だと感じています。
また、自立を支援する役割がある理学療法士として、リハビリテーション以外の時間も生活がスムーズに流れるように動きやすい環境を整えていくことや、ご家族を含めた支援者に姿勢や動き方、介助方法を伝達していくことなど、24時間の生活をマネジメントしていく視点も重要と考えています。_
今後、地域に積極的に出ていき、地域作りにも参画できる理学療法士を目指していきたいと考えています。