ハイリスク者へのリハビリテーションによる健康寿命の延伸への効果―医療・介護レセプト連結データによる分析
研究代表者:田宮 菜奈子 先生(筑波大学ヘルスサービス開発研究センター・筑波大学医学医療系)
KEYWORD: 要介護度 入院から退院のリハ継続 リハ実施状況
1. 概要
超高齢社会を迎えた本邦においては、疾患や障害を有するハイリスク者であっても生活の質を確保し、自宅での生活を希望する場合にはその生活を継続できることが望まれる。リハビリテーション(以下、リハ)は、2000年以降供給量が増加しているものの、リハの理念でもある「生活の質の確保」に寄与しているかどうかについては検証が不十分である。
そこで、本研究では、下記の研究1〜研究3について、「医療および介護レセプトデータ」を用いて明らかにし、リハ提供のあり方について提言する。
研究1 退院後の要介護度とリハ利用状況、医療費および介護費の推移(A市)
研究2 退院後のリハ実施の有無と要介護度推移の関連(A市)
研究3 退院後の要介護度と、リハ利用状況、医療費および介護費の推移(B市)
調査の結果、以下の点が示された。
リハの実施状況は、高齢入院者におけるリハの実施状況について、A市24.8%、脳血管障害では 38.2%であり、リハ継続状況(入院リハ実施者における退院1か月後のリハ継続状況)は、A市 17.1%(入院時の1日あたりのリハ3単位未満 12.6%、3単位以上 28.3%)であった。さらに、脳血管障害においては、15.9%(入院時の1日あたりのリハ3単位未満 11.1%、3単位以上 25.1%)が継続であった。
また、軽中等度介護群(要支援1〜要介護2)において、退院1か月以内の介護保険によるリハの利用があった者のオッズ比は、多重ロジスティック回帰分析:0.51(95%信頼区間 0.28〜0.95)、プロペンシティスコアによりマッチングした対象者(144人)における単変量ロジスティック回帰分析:0.47(95%信頼区間0.24〜0.92)であり、 退院1か月以内に介護保険によるリハを実施した者は、要介護度が悪化しにくいという結果が得られた(表1)。
2. 理学療法士の活用
医療・介護レセプトデータより、高齢入院者におけるリハの実施状況を明らかにしたことにより、より潜在的にリハが必要な人への供給量を示すことができた。特に、脳血管障害では 38.2%と、リハ関与が必要と思われる方でも半数も満たない状況であるため、さらに供給が必要であるという示唆を示すことができる。
入院中にリハを実施していた人が退院後もリハを実施している割合は20%以下だった。障害が改善して介入の必要がない可能性もあり得るが、介護保険利用者といったハイリスクの方に対しては、継続的なリハ介入が要介護度悪化の抑制につながる可能性があることが示唆されている。そのため、退院後の継続リハの重要性と供給・活躍の場として必要であるという結果を示せると思われる。
2012年から2013年の医療および介護のレセプトデータを使用した結果、一市町村の結果は、
◉高齢者でリハビリテーションを実施している人は25%程度でした。
◉脳血管障害のある人でも4割弱しか、リハビリテーションを実施していませんでした。
◉入院中にリハビリテーションを実施し、退院後も継続してリハビリテーションを実施していた人は、17%程度であり、脳血管障害のある人でも16%程度であり、退院後も継続してリハビリテーションを実施している人は2割にも満たない状況でした。
◉退院後1か月以内に介護保険によるリハビリーションを継続実施している人は、要介護度が悪化しにくいということがわかりました。
(参考資料)報告後の研究成果について
以下の論文において、病院から自宅に退院した要介護状態にある高齢者の医療および介護レセプトデータや要介護認定データの分析から、要介護高齢者が退院直後にリハビリテーション(リハ)を受けることで要介護度の悪化を抑制することが示された。
英文タイトル)Effects of Early Postdischarge Rehabilitation Services on Care Needs-Level Deterioration in Older Adults With Functional Impairment: A Propensity Score-Matched Study
著者名)Seigo Mitsutake , Tatsuro Ishizaki , Rumiko Tsuchiya-Ito , Kazuaki Uda , Hiroshige Jinnouchi , Hiroaki Ueshima , Tomoyuki Matsuda , Satoru Yoshie , Katsuya Iijima , Nanako Tamiya
掲載論文)Archives of physical medicine and rehabilitation. 2022 Sep;103(9):1715-1722.e1. doi: 10.1016/j.apmr.2021.12.024.
邦訳) 退院直後のリハビリテーションが要介護度悪化に及ぼす効果
著者名)光武誠吾1、石崎達郎1、 土屋 瑠見子1, 2、 宇田和晃1, 3、 陣内裕成4、 植嶋大晃5、 松田智行3, 6、 吉江悟2, 3, 7, 8, 9、 飯島勝矢7, 8、 田宮菜奈子3, 10
1)東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム 2) 一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 研究部門 3) 筑波大学 ヘルスサービス開発研究センター 4) 日本医科大学 衛生学公衆衛生学講座 5) 京都大学医学部付属病院 医療情報企画部 6) 茨城県立医療大学 理学療法学科 7) 東京大学高齢社会総合研究機構 8) 東京大学 未来ビジョン研究センター 9) 慶応義塾大学医学部医療政策・管理学教室 10) 筑波大学 医学医療系 ヘルスサービスリサーチ分野