ヘルスリテラシー向上に向けた健康教育による予防理学療法の確立と介護予防効果の検証

研究代表者:上村 一貴 先生(富山県立大学、現在大阪公立大学)

 KEYWORD: ヘルスリテラシー フレイル 健康教育 介護予防 予防理学療法



1. 概要

 高齢者の介護予防の従来の手法は、機能回復トレーニングに偏りがちであり、事業終了後も活動的な状態を維持するための活動や社会参加を促す取り組みが不十分であったことがしばしば指摘されてきた。本研究課題では持続可能なフレイル対策・介護予防の推進に向けて、「健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力」を指すヘルスリテラシーという概念に注目した。ヘルスリテラシーの向上は身体活動・食習慣のように介護予防と関連の深い健康行動の積極的実践に関連するものであり、要介護発生の抑制因子として予防のキーファクターとなることが期待される。

 本研究では、ヘルスリテラシーの向上に向けた健康教育は健康行動を促進し、効果的かつ持続的な要介護・フレイル予防効果が期待できる、という仮説を立て、次の2課題について取り組んだ。

課題1 観察研究により、ヘルスリテラシーが要介護リスク(フレイル)に及ぼす影響を明らかにする。

課題2 ランダム化比較試験により、ヘルスリテラシー向上に向けた健康教育介入の効果を検証する。


研究の結果、以下の点が示された。

課題1 京都市舞鶴市で行った郵送による悉皆調査に回答した高齢者のうち、要介護認定を受けていない6,230名を主要解析の対象とした。基本チェックリストにより、1,496名がフレイルありと判定された。修正ポアソン回帰分析の結果、ヘルスリテラシー低下なし群に対するヘルスリテラシー低下あり群の調整済みフレイル有病割合比は1.48であった。またマルチレベルロジスティック回帰分析の結果、地域レベルのヘルスリテラシーの調整済みオッズ比は1.42であり、小学校区内におけるヘルスリテラシー低下ありの割合が高いほど、フレイルありのオッズ比が高くなる関連を示した(図1)。

課題2 富山県内の研究参加に同意した地域在住高齢者160名のうち141名を対象とした。介入群には週1回90分、12週間のアクティブラーニング型の健康教育プログラムを実施した。対照群には12週間の期間中に1回90分、アクティブラーニングを用いない講義形式の健康講座を実施した。アウトカムは要介護リスク指標として、基本チェックリストを用いてフレイルを評価した。その結果、フォローアップ評価の時点(介入終了から24週後)で対照群に対する介入群のリスク比(95%信頼区間)が0.310.11, 0.89と介入によるフレイルの抑制効果を示した(図2)。




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2. 理学療法士の活用

 通いの場等に派遣された理学療法士が、参加者同士の情報交換や交流を促す工夫・仕掛けを行うことで、個人の健康行動の支援に加えて、地域レベルのヘルスリテラシーの向上を目指す。

 フレイルの進行抑制効果が認められたアクティブラーニング型健康教育において、理学療法士の知識・技術を生かしたファシリテートや教材作成を行う。



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高齢者のフレイル(*1)に対して、ヘルスリテラシー(*2)やその向上を狙いとした健康教育がどのような影響を及ぼすかをアンケートや介入研究により調査しました。

高齢者本人のヘルスリテラシーだけでなく、その方が住んでいる地域のヘルスリテラシーが低いと、フレイルを有する危険性が高いことが明らかになりました。

アクティブラーニングを用いた12週間の健康教育プログラムは、従来の講義形式の講座(1回90分)に比べて、フレイルの進行を予防する効果が認められました。

*1 高齢期に心身の機能が低下し、要介護となる危険性が高まった状態

*2 健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力

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