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地域自立高齢者における要介護状態への移行の実態とその予防対策に関する研究

研究代表者:佐藤 慎一郎 先生(人間総合科学大学)

KEYWORD: 介護予防 膝痛 運動指導 健康教育 体操教室


1. 概要


 中山間部の自治体に居住するすべての自立高齢者を対象に、1. 自立状態から要支援・要介護状態への移行頻度とその移行に関わる要因、2. 要支援・要介護の原因となる膝痛の発症頻度とそのリスク要因、3. 科学的根拠に基づいた予防理学療法的膝痛改善プログラムの開発とその長期実践による医療費に対する影響についての検証を行った。

研究1

・目的:

要支援・要介護認定の発生頻度とそのリスク要因を明らかにする。

・対象者:

要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者5,311人(山梨県都留市在住)

・方法:

研究デザイン:前向きコホート研究
追跡期間:33か月間(2016年1月〜2018年10月)
統計解析:Cox比例ハザード分析

解析モデル1:

目的変数:要支援・要介護認定の新規発生の有無
説明変数:身体活動、座位時間、BMI、栄養状態、飲酒、喫煙
調整変数:性別、年齢、最終学歴、婚姻状態、現病歴

解析モデル2:

説明として身体活動時間と座位時間を組み合わせた変数を用い、他はモデル1と同じ

 ・結果:

1. 要支援・要介護の発生率(%/33か月):全体9.7%(517/5,311人)
                    男性9.4%(218人)、女性10.6%(299人)

2. 要支援・要介護のリスク要因:低身体活動、長座位時間、低栄養状態、喫煙、飲酒(表1
3. 身体活動と座位時間の組み合わせにより、要支援・要介護の発生リスクは減少する。(図1


研究2

・目的:

膝痛の発生頻度とそのリスク要因を明らかにする。

・対象者:

膝痛がなく要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者3,380人(山梨県都留市在住)

・方法:

研究デザイン:前向きコホート研究
追跡期間:3年間(2016年1月〜2019年1月)
統計解析:多重ロジスティック回帰分析(解析対象者:2,505人;74.1%)

目的変数:膝痛の新規発生の有無
説明変数:身体活動、座位時間、BMI、栄養状態、飲酒、喫煙
調整変数:性別、年齢、最終学歴、婚姻状態、現病歴

・結果:

1. 膝痛の発生率(%/3年間):全体16.0%(402/2,505人)
              男性16.0%(171人)、女性22.4%(232人)

2. 膝痛のリスク要因:低身体活動、高BMI、低栄養状態、喫煙(表2


研究3

・目的:

膝痛改善プログラムの運動器系障害に対する効果と医療費の削減効果を検証する。

・対象者:

膝痛を有する自立高齢者49人(介入群:20人、対照群:年齢、膝痛をマッチングさせた29人)

・方法:

研究デザイン:非ランダム化比較試験
介入プログラム:膝関節周囲筋の強化と膝関節の柔軟性改善を目的とした4種類の体操

介入群...膝痛改善教室(1回90分/週×4回)と自宅で実施(介入期間:1か月)
    介入期間終了後は自宅で継続実施
対照群...介入なし、通常の生活
介入終了後の追跡期間:4年間(2015年〜2018年)

統計解析:線形混合効果モデル

目的変数:各年度における外来、筋骨格外来、関節症外来の各医療費の2014年からの変化量(2015〜2018年の医療費)−(2014年の医療費)
母数効果:介入/非介入群、時点、群×時点
変量効果:変化量に対する個人のバラツキ
共変量:性別、年齢

 ・結果:

介入群では、対照群に比べて膝痛の改善傾向が認められた。その結果、介入前の2014年に比べ、2015、2016、2017、2018年の各年間の医療費差額は2群間に有意差はなかったが、関節症外来医療費では介入群で減少の傾向がみられた。



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2. 理学療法士の活用


1. 身体活動や栄養といった生活習慣は、要支援・要介護および膝痛の発生予防に重要であることを自立高齢者に対して広く周知をはかる。
2. 生活習慣の改善は、高齢者の自立機能の維持・改善や治療への応用が期待できる。
3. 膝痛を有する高齢者を対象とした膝関節周囲筋の強化を目的とした運動介入を積極的に実施する事で膝痛を改善し、関節症外来医療費を削減する。



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この研究では、山梨県都留市に居住する65歳以上のすべての自立高齢者を対象に、1. 自立状態から要支援・要介護状態へ移行する頻度とその移行に関係する要因、2. 要支援・要介護の発生原因となる膝の痛みの発生頻度とそれに関わる要因、3. 科学的根拠に基づいた予防理学療法的膝痛改善プログラムの開発とその長期的実践による医療費への削減効果についての検証を行いました。その結果、以下のことが明らかとなりました。

対象となった自立高齢者のうち、33か月間に要支援・要介護認定を受けた方は男性で9.4%、女性で10.6%でした。
身体活動時間の少ない人、長時間座ることが多い人、栄養状態に問題がある人、また、喫煙と飲酒の習慣がある人は要支援・要介護状態になりやすいことがわかりました。
身体活動と座位時間の組み合わせにより、要支援・要介護の発生リスクは減少することがわかりました。
3年間で膝の痛みが新たに発生した人は、男性で16.0%、女性で22.4%でした。
身体活動時間が少ない人、栄養状態に問題がある人、肥満な人、喫煙習慣がある人は膝痛の発生が多いことがわかりました。
膝痛改善のための運動を継続実施した人は、実施しなかった人に比べ、膝痛の改善がみられ、そのための治療費が少ない傾向にありました。
これらの結果は、生活習慣が要支援・要介護、また膝の痛みの予防に重要であることを示しています。この結果を踏まえ、今後要支援・要介護および膝痛の予防のためのより効果的な運動や食生活のプログラムが確立されることが期待されます。

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